「兵站術① 〜兵站術と補給〜」

「兵站術① 〜兵站術と補給〜」



 ——兵站の定義——


 兵站(へいたん)とは、軍隊が戦争を行う際、前線での戦闘を除いた全てのシステムを言う。部隊や物資の取得、輸送、管理に至るまで、戦闘を支える全てを兵站の一言で表すことが出来る。

 一応Wikipediaによれば、『戦闘地帯から後方の、軍の諸活動・機関・諸施設を総称したもの。戦争において作戦を行う部隊の移動と支援を計画し、また、実施する活動を指す用語でもあり、例えば兵站には物資の配給や整備、兵員の展開や衛生、施設の構築や維持などが含まれる』と定義されている。

 補給と混同されがちだが、補給は数ある兵站機能の一つに過ぎない。軍隊が前線で戦闘を行うためには補給だけでなく、輸送や修理、野戦病院などあらゆる兵站機能に頼ることになるのだ。


 軍隊が軍隊たる所以は、第一に武装しており、第二に国営であり、第三に自己完結性を有していることにある。

 三つ目の自己完結性と言うのは、軍隊だけであらゆる状況に対応できると言うことだ。犯罪者をその場で裁くための憲兵、物資を得るための補給隊、インフラ整備のための工兵および工作部隊、軍隊財政を管理するための主計科など、軍隊だけで様々なことを完結させることが出来る。災害などでインフラが破壊された地域に派遣されて最も活躍できるのはこのためだし、たとえ国家が滅んでも、軍隊が残る場合かあるのはこのためだ。


 「素人は「戦略」を語り、プロは「兵站」を語る」と言う格言がある。たとえどんなに賢い戦略を立てたとしても、兵站上実行不可能ならばその作戦が机上の空論以上の何かになることはないのだ。

「必要なものを」「必要な時に」「必要な量を」「必要な場所に」が実現できる軍隊は、それだけで他の軍隊に対して十倍の兵数有利を得たも同然である。


——補給の重要性——


 軍隊の目的を究極的に表現すれば、戦争に勝つことである。戦争に勝つためには軍事力を最大効率で扱えることも重要だが、まずその維持をしなければ話にならない。だから兵站の中でも軍隊の維持を握る『補給』は、古今東西あらゆる国が重要視してきた。

 『補給戦』によれば兵士一人で一日に三千キロカロリーが望ましいと言われている(実際にここまで提供されることは多くなかったが)。ビスケットに例えればおおよそ九十枚である。千人を一日食べさせるためには一トン分のビスケットが必要なのだ。米俵にすれば三千俵ねある。兵数が一万、十万と増えればビスケットも同じ倍数だけ必要量が増えるのだ。

 今でこそトラックなどが活用されているものの、中世では船一隻88トン、馬車一輛 0.3トンの補給能力しかなかった。そして馬は人間の十倍食べる(飼葉を)ので、馬車しかなかった時代の補給は極めて非効率であった。

 中世の補給については別でより実践的なことを書く予定だが、軍隊の補給の大変さは理解してもらえただろう。あるフランス軍の将兵は、前線で発生した問題のほとんどは兵站に関するものだと言った。もし天才的な補給方法を考案できたのならば、前線で指揮をするよりもはるかに自軍の勝利に貢献するに違いない。アンサイクロペディアにある最強の補給部隊に関する記述が参考になるだろう。


『……それは高度な通信能力を持っていなければならない、決っして救援要請を聞き逃さないために。

本部に大工場を備え、製造・出荷を日夜続けられる生産力が絶対条件。

そこから新鮮な食料・物資を大量に、どこへでも輸送する能力を有する。

遠距離に渡る不整地走破能力、あるいは飛行能力が必要。

食品を扱うことのできる清潔さを常に維持すること。同時に怪我人の救援も可能であること。』


 ライトノベルで良く使用されるアイテムボックスやワープゲートとは、これら条件を大きく緩和する絶大なチートともなりうるのだ。同じくアンサイクロペディアによれば、補給とは『おべんとう・おきがえ』であるらしい。



「いかに美しい戦略を描けたとしても、結果に目を向けることを忘れてはならない。」 - ウィンストン・チャーチル


 しつこいようだが、軍事において最も重要なのは兵站だ。あらゆる戦術を学ぼうと、どんなに芸術的な戦略を考えつこうと、兵站を無視する指揮官は九割九分無能である。

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