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「ただの人形に戻っちゃった【僕チャーン】? ――ごきげんよう」

「ハーイ! ゴギゲンヨウ」

 【男】は不気味な人形の腕を振り、下手くそな腹話術を見せると、愉快に笑う。

「【こっち】は無事に、生還」

 男の手には、白いタキシードを着た少年の人形。男はそれを、ポイッと地面に投げ捨てた。

「で、【あっち】は死の呪いを振り払い、自死を止めたものの事故死。自殺じゃなきゃ魂は奪えない。憐れな妖精の想いは届かず、意中の男は、あの世で山桜の娘と……ププッ、幸せに幸せに暮らしましたとさ。きひひ、くはは、ぐひひひ……」

 男は腹を抱えて笑う。笑い転げる。

 優しそうな顔で笑う少年の人形は、男の手の中で塵となって消えた。

「二兎追うもの一兎も得ず、か。正に兎の物語に相応しい結末じゃねぇか! かははは! ……あ~ 、中々面白かったぜ、ティターニア。お前は暇つぶしにもってこいだったよ」

 葉巻を吸い『うめぇ』と顔を綻ばせる男は、まるで全てを見下しているかのようにも見えた。

 それもその筈。男は力があり過ぎた。否、与えられ過ぎたのだ。人の死も、自然の死も、神の死も、そして虫の死さえも……男にとっては同等。

 とにかく毎日が退屈でつまらなく、飽き飽きしていた。自分の身体を、【わざと】人形に封じ込めてしまうくらいに……

「しっかし、あいつらも馬鹿だよなぁ。……くひひ。ティターニアとスカーレットが死んだのも、全部俺が仕組んだ事なのに」

 男は再び不気味な人形を手に取ると、『お馬鹿ちゃんでちゅよね~?』などと、話しかける。

「俺の仕掛けた罠に、あいつらは幾つ気付いてんのかね? ……なぁ、蛇?」

 男に蛇と呼ばれた老人は、俯き、沈黙した。男は構わず話を続けた。

「黒兎を匿っていたのが狐のガキだって事も、俺はね~、わかってたのよ。……ようするに、最初から最後まであいつらは俺の暇つぶしでしかなかったってわけだ。終わらせようと思えばいつでも終わらせられたんだから。けど……簡単なのは面白くねぇ。だからこの俺が、物語を盛り上げてやったんだ。粋な計らいだったろ? ひひっ。ともかく! あいつらは最後の勝負に勝ち、島は消滅する事なくこの地に残った。だから……今回は見逃してやるよっ。あんま興味もねぇしな。俺は葉巻と酒と好みの女がいりゃあ、それでいい。――今は、ね♪」

 男は不気味な人形を持ったまま、ゆっくりと歩き出した。蛇も、その後に続いた。

 隣の島では、今夜もまた賑やかで騒がしい宴が始まろうとしている。しかし、この男にとっては……最早どうでも良い事だろう。


 ――男は、口笛を吹いた。

 その音色から溢れ出る【闇】に触れてしまった全ての植物達は、一瞬の内に色を失い枯れ果てる。

「……ありゃりゃ! ごめんねー」

 死神と呼ばれた男は、それを見てニヤリと笑うと……静かにその場から消え去った。

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夜宴の島 後編 【完結編】 夢空詩 @mukuushi

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