エピローグ

 悠也が幼稚園に上がるまでの頃の記憶はなかったな。とても育児に追われて、音楽番組に出演したりしていたから、悠也を悠真の母さんに任せっきりになってしまう。

 なので、今日は休みの日なので、悠也と思いっきり遊ぶことにした。

「ママ~! 遊ぼ!」

「いいよ、悠也。ほら、ここで遊ぼう」

「やったぁ!」

 笑顔が悠真にそっくりで、最近は悠真に性格まで似てきたかもしれない……。

「ママ。パパはどこにいるの? ぼくにはいるの?」

 そう言われたときには、こう悠也に教えた。

「パパはね、もう死んじゃったの。お空にいるの。悠也が生まれる少し前に病気で」

「わかった、ママをパパの代わりに守るからね!」

 悠也を抱きしめてみる。

 とても温かくて、ぬくもりを感じる。

 悠真のお墓参りに悠也を連れていくことにした。

 少しだけ、悠也はなんとなくだったけど、わかったような気がする表情を浮かべていた。





















 家には写真立てがいくつかある。

 でも、ちゃんとした家族写真はない。

 悠真の笑顔が写った写真を見る。

 まるで時間が止まったみたいに見える。

 でも、悠也が生まれてからは、その時間が動き出したような気がする。

 ねぇ、悠真。

 悠也がもう三歳になったんだよ。

 早いよね、子どもの成長するのは。

 意識不明になる直前、こう言ってくれた。

「たとえ、この命が終わろうとしても、お前が好きだ」

 それはいまもわかってる。

 左手の薬指を見つめる。

 悠真にプロポーズされて、もらった指輪だったけど、悠真の指輪を重ねて一緒にはめている。

「ママ、ただいま~!」

「おかえりなさい、悠也」

 悠也が帰ってきた。

「ようちえんのおともだち。ゆきちゃん!」

 どうやら、女の子を連れてきてくれたみたい。

 その子が帰ると、悠也はそのまま部屋に戻る。

 悠真の写真を見つめる。

 ――あの子はどんな物語を作ってくれるかな?

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あなたのいない夏 須川  庚 @akatuki12

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