第11話 別れと出会い

 それから三ヶ月が経った。

 デビューする直前、悠真が入院してしまった。

「大丈夫? 悠真。心配になるな~」

「うん。俺も収録、行ったけど」

 わたしはそっとキスをしてから、そのまま夜になって帰ること直前、悠真に伝えた。

「赤ちゃんができたの。冬には父さんになるんだよ」

 悠真がびっくりして、喜んでくれた。

 でも、悠真の容態が悪化した。

「悠真! 起きてよ! ねぇ……悠真」

 バンドのみんなが駆けつけてくれた。

 でも……その後、意識不明になってしまった。

 もうそのときにはバンドはCDデビューしていて、CDの売れ行きも上々らしい。

 外は夏空がきれいに見える。

 悠真の手を握って、話しかける。

「悠真、きれいな空だよ?」

 わたしはとてもつらかった。



 悠真の意識は全然戻らなかった。

 バンドでテレビの収録があっから、わたしは少しの間だけ病室を離れた。

『Sky Blue and Summer』の新曲を初めて歌った。

 悠真とのとても楽しかった思い出が巡る。


 いまこの瞬間にも自分が消えてしまっても、忘れないで欲しい

 僕はまた君のもとへ かえるから。

 悠真の声が聞こえてきた。

 ――いままでありがとう、あとごめんな。その言葉に嫌な予感がした。



 その収録が終えて、悠真のいる病院から連絡があった。

「ハル姉! 悠真、どうしたの?」

 嫌な予感が的中してしまった。

「いま、心肺停止して、いまから蘇生するから」

 目の前が真っ白になってしまった。

 病院に着いたときには、悠真が心肺蘇生を繰り返していた。

「悠真! しっかりして! 起きてよ」

 悠真を抱きしめることができたのは、主治医の医師が確認した直後だった。

 彼の手をそっと握る。

 まだ温かくて、ぬくもりがある。

「悠真……いままでありがとうね、これから、お腹の子と生きるからね」











 悠真の葬儀にはたくさんの人がやって来た。

 わたしはとてもショックで、時間が過ぎてく感覚がわからなかった。

 感覚が戻ったのは、悠真の実家に帰ってきたときだった。

 悠真が遺骨になって、わたしはそっと触れる。

「悠真、しばらく見守っててね」

 子どもの性別がわかったのは、その直後で男の子だと判明したの。

 戸籍は悠真の子どもとして、戸籍に入ることになる。

 わたしはそっとお腹に触ると、赤ちゃんが動いた。名前はどうしようか考えていた。

 悠真の字を入れたかったから、少し考えていると、ハル姉がやって来た。

「ハル姉、ごめんね。わざわざ、来てもらって」

「いいのよ。悠真の子どもとして、この子を生んであげてね、アイツも喜ぶよ」

「うん。悠真の字を入れたかったんだけど、名前のことなんだけど」

 ハル姉は悠也を指差した。

「この子にはこの名前が合ってる」

 悠也、と声をかけると、悠也が蹴ってくる。

 とても幸せな気持ちになった。

 この子を寂しい思いをさせたくなかった。

 わたしが経験したことをさせたくなかった。

 悲しんでる場合じゃないよね?

 バンドのみんなが駆けつけてくれた。

「悠也くん? 赤ちゃんの名前」

「うん。悠真の一文字をとったの。とてもつらかったけど、悠也を生むときは明るく迎えたかったから」

「陽菜乃、すっかり、ママの表情をしてるね~」

 咲空さらちゃんが笑って話していた。

 不思議と涙が溢れて、にじんできた。


 悠也の出産予定日がやって来た。その日は悠真の四十九日が明けた直後だった。

 陣痛がすごい速い間隔になっていた。

「ハル姉、どうしたの?」

「陣痛が思ったより間隔が速まってて、もう生めるんだって。力んで!」

 とてもつらかったけど、悠也が産声をあげたときは、泣きそうになった。

「よくがんばったよ、陽菜乃ちゃん。悠真も喜んでるはずだよ」

「うん。悠真に似てるかも。名前は悠也にしたけど、ぴったりだよ」

 悠也がぐっすりと腕のなかで眠ってる。

 その表情を見て、ホッとできた。

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