第2話 好きと心の傷

 軽音楽部に入りたかったのは、新入生歓迎会のときの演奏聞いたときだ。

 同年代で、とても素敵な演奏をして、観客を興奮の渦に巻き込んでいくのがすごく惹き付けられた。




 それから、二週間。

 軽音楽部の部室にやって来た。

 仮入部期間中は、悠真と一緒に行くことにした。

「新入生? 仮入部だね」

 三年の先輩が出てきたのに、びっくりした。

 そこではこの前、歌ってた曲を演奏していた。

 その曲はわたしと悠真がとても気に入ってる曲だったんだよね。

「あ、かっこいい! 悠真、ここに入ろう」

「うん。陽菜乃、気が早すぎるよ」

「陽菜乃ちゃんと悠真くんだよね? 名前」

 自己紹介もそこそこにしてたのを思いだし、あいさつすることにした。

「みんな、集合して。新入生が二人とも仮入部に来たよ、自己紹介をしてくれる?」

「え~と……一年三組の橋元はしもと悠真ゆうまです、ベースが弾けます」

七生ななみ陽菜乃ひなのです。ギターを得意としてます」

 先輩は二年生が四人、三年が三人の七人だった。

「わたしが部長の篠倉しのくら麻都佳まどかです。『LUNA』のドラマーで三年。で、ベーシストの笹崎ささざき咲由良さゆら、ギタリストの咲野さくやは双子の兄妹だよ。ここがツインボーカルだよ」

 あの部室から出てきたのがそのギタリストだったんだ。

「キーボードのりゅう美麗みれい。うちらは中国語読みのメイリーって、読んでる」

「初めまして、二年はあとから来るから、腕試しでもしてみる?」

 メイリーさんに言われて、ギターを持って来てくれたの。

 わたしはギターを弾き始めた。

 暗譜で弾いてみるのは、とても好きな曲だ。

 ベースの音がした。悠真が弾き始めていたのだ。

 とても上手い、ベースは悠真の父さんが教えたらしいんだよね。ものすごく上手いな。

「上手いな、二人とも。悠真くんと陽菜乃ちゃん」

「はい。教えてもらってたので」

 わたしは悠真と歌い始めることにした。

 よく、歌ってた曲。

 ハモるところとかも、工夫して歌ったりしている。

「すごい! 二人とも、軽音楽部に入ってよ。絶対できるって」

 今日は帰ることになった。

 電車に乗っていると、悠真が疲れたのか、眠ってしまった。

 わたしと悠真の通う高校は都心部にあって、東京駅から通勤快速に乗って約一時間ほど乗るから、寝ることもできる。

 わたしは通信教育の問題を解き始めたときだ。

 わたしの肩に悠真の頭が乗るような体勢になったから、びっくりしてしまった。

 ドキドキと心臓が速くなる。

「ん……ごめん、寝てたな。陽菜乃」

「ううん。大丈夫、びっくりしただけだよ」

 悠真は座り直して、最寄り駅までそのままだったんだ。

 最寄り駅に着いたときには、夜の七時になっていた。

「ヤバいな、姉貴の車で帰るか」

「ハル姉に電話してください……」

 悠真はスマホで電話を掛け始めた。

「あ、もしもし。姉貴? いま、瀬倉駅にいるんだけど……陽菜乃もいるからさ……送ってくれ。家まで」

 わたしは家族に言われたことを思い出した。

「あぁ!!」

「どうした? 陽菜乃」

「今日から、母さん、二ヶ月、出張で帰ってこないんだった……どうしよう」

「マジか、姉貴。母さんに陽菜乃の飯も用意しておいてくれと、言っといて」


 ハル姉が来たのは、それから三十分くらいだった。

「陽菜乃ちゃん。お母さんが出張だってことは、昨日のうちに電話が来てたから、安心してね。大丈夫だからね」

 わたしはそのままハル姉の車に乗り、悠真の家に向かうことにした。

 悠真は爆睡している。

「最近はどう? 悠真との仲は」

「え? う~ん……あんまり、告白してない。まだ」

「いいわね~。青春してるね。わたしなんて、そんな時期なんかをすっ飛ばして、大学の医学生になったからね。恋も全然してこなかったから」

「ハル姉。あのね。悠真に好きって言えないの。なんか、いつも、前にすると自分がって、なっちゃって……」

「大丈夫。まだ高校一年なんだし、一緒にゆっくりとしてもいいと思うけど」


 わたしはそのまま夕食を悠真の家で食べて、帰ることにした。

「ただいま」

 声は暗闇に消え去る。

 一人だけの生活には慣れているけど、この夜の雰囲気はなかなか慣れなかった。

 わたしの家は両親が小学生の頃に離婚し、名字も父の倉西から母の七生ななみに変わった。

 離婚の理由は母さんに話しかけられなかったけど、親戚に会ったときにその理由に近いものを聞いた。

 父さんが母さんの他に恋人がいて、その人の元に向かってしまったらしい。

 小さな頃に父さんにDVを受けていた。

 わたしも泣きながら悠真の家に、駆け込んだこともしょっちゅうあった。

 警察と児童相談所にも事情を聞かれてから、離婚調停に入ってからは父さんが出ていった。

 それから、もう何年も経つけど、怖くなる。

 光のように導いてくれたのは、悠真だった。

 でも、好きとは言えなかった。

 心の傷がそれを阻んでいる。

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