2.余命12年の青年

 全身が痛い。俺はうつ伏せに倒れているらしい。なんでこんな場所で倒れているんだ? 目を開いたら、どこまでも続く赤茶色の大地と、青い空が見える。

 俺は両手をついて体を起こす。どういう経緯で全裸の俺が地面に倒れたんだ? たしか……、大学に行く気が起きなくて、下宿に引きこもってゲームばっかりやってたけど、気分転換で外に出て"拡散計画"の勧誘に引っかかったんだったか。



『これから人格コピーを行います。あなたご自身には影響はありませんが、このコピー時点の記憶状態を元としてたコピー人格が繁殖用生体にセットされます。なので、繁殖用生体向けの事前説明をさせていただきます。あなたはこれから未開拓の惑星において、繁殖のテストを行っていただきます。男女ともに、同意書にて同意いただいた方を対象としております。惑星に存在するのはお二方のみですので、禁則や罰則などはございません。例外としてパートナーの殺傷だけは禁止させていただいております。"何をしても良い"と思われがちですが、お互いの意見を尊重し、できるだけ仲良く行為に励んでいただくようにお願いします。あなた方お二人の活動に人類の未来がかかっております。素晴らしい結果を残されることを期待します。』



 最後に聞いた、"事前説明"を何となく思い出した。つまり、俺は俺じゃなく、俺のコピーであるところの繁殖用生体、ということか。我ながら軽々しく遺伝子と人格の提供を行ったもんだな。正直、自分が自分じゃないってかなりショックだな……。

 確か繁殖用生体の成長速度は普通の人間の5倍と言っていた。つまり寿命は5分の1ってことだ。普通の人間が80まで生きると仮定しても、16年しかない。俺の今の体はコピー前の19歳とほぼ同じくらいに見えるから、普通の人間で残り約60年生きるとして、余命12年か……。この何もない星だと、割と長い気がしてきた……。まだ見ぬ嫁さんと、子供作って成長見守って生きるなら存外に悪くないかもしれない。


「って、まだ見ぬどころか、どこにもいないぞ、嫁さん」

 俺は痛む体で立ち上がり、周囲を見渡す。後ろ以外は全方向、視界の限りに荒野が続くのみ。

「とすると、後ろか……」

 後ろは切り立った崖。崖の一番下には白い何かの残骸が転がっている。足を引きずりつつ近づいてみると、なにやらカプセル状の物体だったようだ。

「俺、たぶんこの中に居たんだよな……、」

 上を見上げる。

「そして、崖から落っこちた、と」

 事故なのか、事件なのかわからないが、何かあるとしたらこの崖の上か。

 右を見ても、左を見ても、はるか遠くで崖が終わりを迎えているらしき様子が見える。この切り立った崖を上るのと、崖の終わりまで行くのとどちらが楽か。

「行ってみるしかないか……」

 俺は体に鞭うって、足を引きずりながらも歩き始めた。






「事前、説明で、ふぅっ、こんな、状況は、聞いてない、し、」

 息が切れる。体が全然うまく動かない。まだそれほど歩いた感じはしないが、既に疲労感でいっぱいだ。一旦足を止めて休憩する。

「ふぅぅ」

 ため息なのか、深呼吸なのかわからない息が漏れる。

 事前説明でも、この状況は聞かされていない。ということは不測の事態であることはわかる。しかし、確か男女2名だけで送られるって話だから、救援が来るとしたら、その相方の女性ってことになるのか? そもそも救援は期待できるのか?


「崖の上に、何かがあるっていうのも、ただの予想だしな……」

 もしかすると、宇宙船が着陸途中で空中爆発したとか……。そんな状況だとしたら、崖の上に行っても何もないかもしれない……。


『発見しました』

「え?」

 背後に何かが落下した音の直後、無機質な女の声が聞こえた。振り向くと、全身真っ白な女性が立っていた。

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