5.ホラー映画に音でビックリ

「……っ!」

 大音響と共にテレビ画面にゾンビが大写しになる。一瞬体がビクッっと反応してしまった。横目で確認する……、よし、萌絵にはばれてない。

 たまにはゲーム以外、ということで、こうは生物災害的な映画を視聴中だ。まあ、どっちかというとゾンビより、主人公の女の子が暴れてるシーンがメインだな。

「海外の映画って、音で驚かせにくるよね」

 俺は萌絵に語り掛ける、が、萌絵からの返事は無い。

「ん?」

「へ、へへ、」

 萌絵は引きつったような笑いが張り付き、か細い声で笑い続けていた。その目からは光が失われている。

「ちょ、萌絵、戻ってこい!!」




「あはは、大丈夫大丈夫、なんともないよぉ、そ、それじゃ帰るねー」

 引きつった表情で、未だに目から光が失われたままだが、萌絵は帰って行った。ちゃんと外まで見送った結果、自分の部屋へ無事入っていった。

「……、まぁ、大丈夫かな。」





 俺は映画を見たノリで、生物災害的ゲームをプレイすることにした。

「まぁ、既に1周してるから、どこで何が出てくるか知ってるんだけどね」



 こんこん



「……?」

 出現したゾンビを丁寧に銃で処理する。



 ガチャ ギィィィィ



「ん?」

 ゲームの合間に何か聞きなれぬ音が鳴ったような……、


 玄関にぼんやりと浮かび上がる人影……

「ひっ」

 俺は一瞬息を飲む。だが、直後、その人影が奇声を上げた。

「きゃぁぁぁぁぁぁぁぁ」

「ぎゃぁぁぁぁぁぁぁぁ」

 人影が甲高い悲鳴を上げ、それに呼応するように俺も情けない悲鳴を上げた。


「ぁぅぅ、ぁぅぅ」

 くまさん柄のパジャマ姿で、萌絵がガクガクと震えている。どうやらテレビ画面に映ったゾンビに驚いたらしい。いきなり部屋に入ってこられた俺のほうがビックリなんだが……。


「だ、大丈夫か?」

「う、うん、だいじょぶ、だいじょぶだょ……」

 まだ少しガタガタしているが、目には光が戻ってきている。


「それで、いきなりどうしたんだ? なんか急用?」

「あ、そ、その、えーっと……、 そ、掃除しようか?」

「え、今から!?」

 時刻は既に10時過ぎ、今から掃除はさすがに……。

「じゃなくて、耳掃除! 耳掃除だよ! 耳掃除したげるね!!」

 ということで、強引な流れにより耳掃除をしてもらえることになった。



「それじゃ、はい」

 床に正座し、耳かき片手に待つ萌絵。え、これは……。俺が静止したのをみて、萌絵は膝にぽんぽんと手を置く。やっぱりそういうことだよね。

「えっと、おじゃまします」

 どこへ"おじゃまする"のか不明だが、俺はそう挨拶して萌絵の膝に頭を乗せる。顔側面と後頭部に感じる女子特有の柔らかさ、そしてぬくもり。ほんのりいい匂いもする。

「それは、始めるね」

 萌絵の指が耳に触れ、そして耳かきが差し込まれる。



「痛いとこないー? かゆいとこないー?」

「うん、だいじょぶ」



「はい、次反対ねー」

 こ、これは、そのまま反転していいのか!? め、目の前がこ、股間に……。きっとダメならダメと言われるはず! よし、反転!

「あ……」

 ちらっと横目で見た表情は真っ赤に染まっていた。が、特に拒むような感じではない。そして耳掃除開始。

「……」

 先ほどとは異なりお互い無言だ。緊張のせいか膝枕が幾分硬くなった気がする。



「お、終わったょ……」

「あ、ありがと……」



 俺は膝枕から起き上がり、萌絵は耳掃除の道具を片付ける。室内には、なんとも微妙な沈黙と空気が漂った。

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