4.下味が付いたものは本当は竜田揚げ
「あ、また飛ばされたぁ!!」
「ふはははははっ!!」
俺が操作する剣士によるスマッシュで、萌絵の狐っぽい人間が吹っ飛んでいく。
「戦車だしてやる!! あ、ちょっと逃げちゃだめ!!」
「そんなのまともに相手できるかー」
画面を暴れまわる戦車を相手にせず、俺はあちこちへと逃げ回る。
「ハンマーでたたく!!」
「アイテム投げ、ブーメラン、弓矢、爆弾投げ」
「ちょっと!」
俺からのひたすらな遠距離攻撃で、萌絵のキャラクターは身動きできず、ハンマー時間が終了した。
「もー」
結果、すっかりご立腹の萌絵が出来上がった。
「ごめんなさい、やりすぎました」
俺は萌絵の許しを請うべく、床に額を擦り付ける。
「お許しいただくためなら、足でも舐めます」
「え、いや、それはちょっと……」
むぅ、望むところだったのだが……。
「あ、こんな時間、そろそろ夕ご飯準備するね」
極々ナチュラルに、萌絵は夕食の準備を始めようとする。
「手伝うよ」
俺も一緒に立ち上がり、萌絵に付いて行こうとしたが、
「いいのいいの、ここは私にまかせなさいっ」
萌絵は可愛いウインクで、俺を張り付けにしたのだった。
エプロン姿でテキパキと準備する萌絵を眺める。たまにひらりと揺れるプリーツスカートがまぶしい。ご飯は美味しいし、洗濯掃除、整理整頓も完璧、萌絵は女子力……というか、主婦力が異常に高いな。
「萌絵はいいお嫁さんになるな……」
「え、ちょ、な、なに言ってるの!? よ、嫁だなんて!! やだなぁ、お兄ちゃん!!」
俺がぼそりと呟いた言葉に、萌絵は顔を真っ赤にし、全力で動揺している。うむ、その姿すらも可愛らしい。だが、危険だから包丁を振り回すのはやめてくれ。
本日のメニューはなんと"唐揚げ"! 男子小学生がバレンタインに貰うと、チョコより喜ぶというアレだ!
「はぐ」
もぐもぐと咀嚼する。口に広がるジューシーな味わい。その中には、衣の甘味、つけダレの塩味、肉から出た脂身とうま味、そして匂い付けのニンニクが混然一体となり、脳髄を溶かすようなハーモニーを奏でる。
飲み込んでもすぐに次が欲しくなり、必然口を開く余裕なく、俺は唐揚げを頬張る。
「どお、おいし?」
俺は口がふさがり続けており萌絵の言葉に言語で返せない。ひたすらに頭を立てに振り、その美味さを表す。
「ふふ、よかった」
俺の仕草がよほど滑稽だったのか、萌絵は可笑しそうに笑う。いいさ、俺はこの美味さに溺れる。笑うなら笑え!
萌絵が大皿に山盛り作ってくれた唐揚げも、あっという間に食べつくしてしまった。
「う、うまかった……、勢いで食べすぎた」
俺は食べすぎで苦しい腹を少しでも楽にすべく、やや踏ん反り返った姿勢で腹を撫でる。
「いてて」
ふと見れば、萌絵が肩に手を当て、少し痛そうにしている。まさか、学校や家事で疲れている!?
「すまん、もしかして家事疲れか?」
「あ、ごめん、違うの、昨日変な格好で寝ちゃったみたいで、朝からちょっと痛いだけだから」
ここは彼女を労う意味でも、恩返しのチャンスだな。
「マッサージしようか、少しは楽になるかもしれないし」
「え、わ、悪いよぉ」
少し照れながら、萌絵が遠慮する。それほど嫌そうではない、ならここは押すべし。
「いいっていいって、家事やってもらっちゃってるから、少しくらいお返しさせてくれ」
「そ、そう? ならお願いしちゃおっかな……」
肩に手を、ゆっくりとまずは弱めに肩を揉む。
「ん……」
「痛かったら言ってな」
「……うん」
首元から外へ、僧帽筋全体をほぐすように手を動かしていく。
「ん、ふぅ……」
さらにそこから背中、背骨にそって下と、肩甲骨の回りも優しく指圧していく。
「ぁ、ん……」
微妙に艶めかしい声を出す萌絵に、俺もなんだか変な気分になってくる。いや、ダメだ、今はマッサージ中だ。揉みしだく……、じゃなくて、揉みほぐすことに集中しろ。
たっぷりと10分ほどかけ、あまり痛くならないように肩回りをほぐした。
「多少は良くなったか?」
「うん……、よかった……」
なら良かった。俺もなんだかいい物見れた……。
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