2.ペペロンチーノは簡単美味しい

 ──あんた何で生きてんの!?

『──を殺すことは許可されていません』

 ──私帰りたい!! こんなとこ来たくなかった!


 ──だまれ!!





「ふがっ!」

 俺はベッドから落ちた。

「あいててて……、」

 なんか変な夢で興奮してベッドから落ちてしまったらしい。

「変な夢のせいだ……、変な夢……?」

 んん? 夢なんて見てたか?


 ぐぅぅぅ


「腹減ったな、もう11時かよ……」

 いつもながら、またもかなりの朝寝坊だ。とりあえず何か食べるか。



「すまない、少しいいだろうか?」

「ぎぃゃぁぁぁぁぁぁ!!」

 背後から声をかけられ、俺は盛大に悲鳴を上げた。いつの間にか四王天が部屋に居た。四王天は俺の無様な悲鳴にも、全く動じた様子はない。

「ヤバイ、心臓にヤバイ、心臓麻痺するかと思った……。す、すまないと思うなら勝手にカギ開錠しないでくれ! っていうか、俺チェーンロックかけてたよな!?」

「ん? ああ、あのU字型のチェーンロックか、あれならゴムが在れば簡単に──」

「アンタお嬢様なんだよな!? なんでそんな技術に詳しいんだよ!!」


「それで食事のことなんだが──」

「俺の心からの訴えに関して、少しは考慮してほしいのだが……」

「食事はいつ配膳されるのだろうか?」

「は?」

 俺は心底言っている意味が分からず、恐らく相当に間抜けな顔で聞き返したと思う。

「だから、食事はいつ出てくるのだろうか?」

「え、いや、出てこない、けど……」

 俺の言葉に、四王天は目を見開く。力強く見えた瞳が微かに揺れたように見えた。


「なんだと……? で、では、食事はどうしたらいいのだ?」

「いや、自分で作るなり、買ってくるなり……」

「な、なんということだ、これが庶民の生活というものか」

「いや、庶民だけじゃないだろ、それは」


 ぐぅぅぅ


 今度は俺の腹じゃない。音の出所である四王天は、羞恥からか、ひどく赤面している。

「ふぅ、なら、今日はうちで食ってくか?」

「なっ! 未婚の男女が同じ部屋で寝食を共にするだと!?」

「いや、食はまだしも、寝はしねぇよ!?」


 成り行きだが仕方ない。二人分の昼食を準備しますか。とはいえ、俺もそんな凝った料理はできない。

「……、ま、これでいっか」

 俺はいつも作り慣れたペペロンチーノを作った。良く考えたら、ニンニクくさいペペロンチーノは女子に嫌がられるかなぁ……。まあ、四王天だからいいか。そんなことより俺のプライバシーを気にしてほしいところだ。


「はい、大した物じゃないけどな」

「おぉぉ……」

 四王天は驚きからか、ペペロンチーノを前に目を見開き、感嘆の声を挙げる。お嬢様っぽい四王天は、こんな素人料理は見たこともないだろうから、珍しいのかな。

「これが庶民の食事……」

「庶民で悪かったな、俺はド平民だよ!」


「いただきます」

 四王天はしっかりと手を合わせ、いただきますの挨拶をする。フォークでスパゲッティをくるくると綺麗に回し、大きく開かなくても入る適度なサイズに巻き取って口に運んでいく。さすがに所作は優雅で洗練されている。ずるずる吸ってしまう俺とは大違い……。


「うむ、この安っぽい味付けがいいな」

「安っぽくて悪かったよ」

 お嬢様にも、一応お気に召してはいただけたようで。

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