冬はお嬢様

1.カップ&ソーサーは高いと数万円

「いつの間にやらすっかり寒くなったなぁ」

 今はこたつ化したちゃぶ台、そこに足を突っ込みコントローラを握る。


「プリーツスカートって、男心をくすぐる何かがあるよね」

 コスチューム設定で膝上丈のプリーツスカートを設定する。



 ピンポーン



「髪型はショートで──」



 ガチャ、バンッ



 え? ガチャ? 俺はいつもと異なる音に、焦って玄関を見る。玄関の扉が開かれ、そこには、黒髪ロングヘアの美女が立っていた。その髪は長く、腰にまで届くほど。ぴっしりと首までボタンを留めたブラウスと、濃紺のロングスカートを身に着け、肌の見える部分はほとんどない。非常に整った顔立ちをしており、特に意志の強そうな目と眉が特徴的であり、魅力的でもあった。たぶん身長は俺と変わらないくらいなんじゃないだろうか。


 その女性は、足を肩幅程度に開き、両手を腰に当て、その力強い視線を俺に注ぐ。

「なんだ、居るではないか」

「いや、居るではないかじゃなくて! カギ閉めてあったよね!?」

 俺のツッコミに、一瞬意外そうな顔をしたその女性は、すぐに表情を戻した。

「なんだ、そんなことか」

 彼女は大したことでも無いように、その背後から数本のカギを取り出す。

「大家からマスターキーを預かった」

「プライバシー!! 俺のプライバシーどこーっ!?」



「隣に引っ越してきた四王天しおうてん 麗華れいかだ。よろしく頼む」

「この状況で無理やり自己紹介に持っていく強引さがすごいよ!!」

 四王天は右手を差し出したまま、俺の動きを待っている。なんとも、強引なことだ……。

「はぁ、俺は加無木かむき 零次れいじ、よろしく」

 渋々その手をとり、俺は握手する。こんな時でも、「あ、手柔らかい」とか思ってしまうのは、男の子だし、仕方ないよね。


「あー、その、つまらないものなのだが」

 四王天はどこに持っていたのか、ずいぶんと大仰なサイズの紙袋を取り出し、俺に渡してくる。これは、引っ越し挨拶の品か?

 俺は紙袋を受け取る。やけにずっしりする。

「ウ○ッジウッ○のカップ&ソーサーのセットだ、普段使いにでもしてくれ。」

「金銭感覚の次元がおかしいわ! そんな恐ろしいもん、普段使いできるかっ!!」


「それで、少し聞きたいのだが……」

「相変わらず話題転換が強引だな……」


「この隣には狭い物置部屋しかないのだが、ベッドルームやリビングルーム、ダイニングルームはどこにあるのだ?」

「その一室がアンタのベッドルームでリビングルームでダイニングルームだよ! 俺の部屋見て分かれよ!!」


「な、なんと、そうなのか……、なら、この荷物は引き揚げねばならないな」

 玄関から顔を出し隣室を見る。廊下まであふれ出す衣装棚や飾り棚、書棚になんやかやといろいろな荷物がぎっしりと──

「よくここまで運んだな! ぎっしり詰め込む前に確認しようよ!!」


「その、また、わからないことがあったら……、聞きに来ても良いだろうか?」

「そのタフな精神力が凄いわ……、まあ、いいけど、勝手にカギ開けて入ってくるのはやめてくれ」

「ありがとう、助かる。」

 俺は四王天に求められ、再度握手をしたのだった。

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