ユーバ・アインス編

第一章【機械的な人形の兵士】

 女神から与えられた情報によれば、ユウ・フィーネという少年は賢者と呼ばれる存在らしい。

 そしてユーシア・レゾナントールは狙撃手スナイパー、その実力は間近で見たことがあるので知っている。

 ユノ・フォグスターは雷の魔法を得意としているらしく、アウシュビッツ城の一角を焼き払った実力は折り紙つきだ。


(【推測】彼らの実力であれば、任務の達成は容易い)


 ユーバ・アインスの思考回路はそう判断する。

 これだけの実力を持つ人物が揃っているのだから、女神の言っていた悲劇は容易く塗り替えられるだろう。これなら安心だ、すぐに元の世界で戦線復帰ができる。

 そう判断していたのだが、どうやらこの世界は簡単にユーバ・アインスを解放してくれそうにないようだ。すぐさま自分の中に警鐘けいしょうが鳴り響き、素早くユーバ・アインスは索敵機能を持った瞳を周辺へ投げる。


 ――【報告】多数の敵性反応を確認。【推奨】退避。

「【拒否】退避は認めない」


 ユーバ・アインスが自分の中で退避を推奨してきた機構に拒否の姿勢を示すと、そのやり取りをはた目から見守っていたらしいユウが「……あの?」と顔を覗き込んでくる。


「ど、どうかしたんですか? さ、さっき、退避は認めないって言っていましたが」

「【回答】問題ない。当機の安全装置セーフティが誤作動を起こしたようだ」


 そう回答すると、ユウは見るからに安堵したような表情を見せた。

 彼はひどく臆病者である。よく言えば平和主義者だろうか。その強大な力を持つあまり、他人を傷つけてしまうことを恐れているようだった。

 あまり前線に出たがらないユウを無理やり戦場に引っ張っていくのは、さすがのユーバ・アインスでも推奨できない。自由人であるユノがついてくることなんてないだろうし、ユーシアは起きたばかりでまだ調子を取り戻した訳ではなさそうだ。


 ――【報告】多数の敵性反応が接近中。【推奨】迎撃または退避。

「【回答】位置を示せ」

 ――【了解】敵性反応の位置を送信。


 視界の端に出現したホログラムの地図に、赤い光点がいくつも表示されている。その数は大量と言っても過言ではないだろう。赤い光点は、雪崩のようになってユーバ・アインスたちがいる軍事拠点まで押し寄せているようだった。

 なるほど、問題ない。

 これだけの量を前にして、ユーバ・アインスはなおも「問題ない」と判断した。

 機械人形アンドロイドの相手は、ユーバ・アインスの本職である。ユーバ・アインスの世界は、機械人形による戦争が起きていて、ユーバ・アインスもまた戦場に投入された機械人形のうちの一機である。

 ユーバ・アインスの同型機は全部で一〇機存在し、ユーバ・アインスはそのうちの初号機だ。彼が得意とすることは、


「【報告】少しその辺りを散策してくる」

「え、あの、お一人は危険ですよ?」

「【回答】問題ない。当機は強い」


 心配そうなユウにきっぱりと言い放ち、ユーバ・アインスは淀みのない足取りで敵性反応のする方向へと向かった。

 急がなくては、彼らに被害が及んでしまう。そうなる前に片をつけなくては。

 ユーバ・アインスは自分の中の兵装でなにが一番適しているか模索しながら、近づきつつある大量の赤い光点へ歩み寄っていく。


 ☆


 ユーバ・アインスを開発した博士の子供が、おとぎ話の本を持ってきて読んでほしいとせがんできたことがあった。命令された通りにユーバ・アインスはその本を読んだが、内容はこんなものだった。

 悪い魔法使いにお姫様が攫われて、王子様が彼女を助けに行く冒険譚。山を越え、海を渡り、獣を狩り、ドラゴンを倒して、最終的に悪い魔法使いも倒してお姫様と幸せになる話だ。どこにでもある勧善懲悪の冒険譚で、子供も喜んでいた。

 その世界観と、この世界は似ているのだ。銀色の甲冑に魔法使い、物々しい雰囲気を感じる石造りの城。それらを全て見て、ユーバ・アインスは中世の世界観だろうと判断した。

 そのはずなのだが。


「【疑問】何故この世界には機械人形が?」


 その疑問を解消してくれる相手はいない。

 赤い光点の処理をする為にユーバ・アインスは、大量の機械人形と対峙していた。

 完全な人型であるユーバ・アインスとは違って、相手はつるりとした黒い塊を頭として胴体がある。腕も足もついているが、球体関節が人形めいた部分を強調している。衣服の類は身につけておらず、武器も持っていない。

 しかし、まるで操り人形のように揃って行進している人形の群れは、なんとも不気味である。ユーバ・アインスは不思議そうに首を傾げ、そういえばとある出来事を思い出す。

 この世界にきて初めて対峙した敵が、魔力駆動による戦艦だったか。なるほど確かに世界観にそぐわないものが出てきてもおかしくはないか、敵もなりふり構っていられないのだろう。


「【展開】超電磁砲レールガン


 ユーバ・アインスは問答無用で兵装を展開させた。

 これだけの量を丁寧に潰していくのは面倒だし、こういうのは先手必勝である。相手が攻撃してくる前にやったもの勝ちだ。

 展開した純白の砲塔から、ガカッ!! と白い光線が放たれる。虚空を引き裂いて飛んでいったそれは、よたよたと歩いている人形の群れへと突き刺さる。

 その時だ。


「攻撃察知。展開。反射」


 どこからか不思議な声が聞こえてきて、人形たちに突き刺さったはずのユーバ・アインスの攻撃が展開された魔法陣によって受け止められる。

 ユーバ・アインスは「【驚愕】当機の攻撃を受け止めるとは」と驚愕したが、それもつかの間のこと、先ほどの言葉を思い出して全力で回避した。

 魔法陣によって受け止められたユーバ・アインスの攻撃は、ゴバッ!! とそのまま反射される。反射された攻撃はユーバ・アインスの後ろに広がっている森に突き刺さり、木々を薙ぎ払った。回避していなければ、おそらくユーバ・アインスは故障していたかもしれない。


「【推測】魔力を用いた機械人形か」


 ユーバ・アインスは納得する。

 そういうことであれば、まあ手加減は無用だろう。敵を前に手加減をするなどという愚行はさすがにユーバ・アインスは好まない。

 なので。


「【了解】その攻撃を当機は敵対勢力と認識。戦争を開始する」


 ユーバ・アインスは兵装を展開させる。

 純白の剣、純白の大砲、純白の盾に純白の槍――様々な武器を背後で展開して、ユーバ・アインスは口上を述べた。


「【証明】当機はユーバ・アインス、ユーバシリーズの一号機にして最高傑作と言われた機械人形である」


 ユーバ・アインスが得意としていること――それは、

 

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