第二章【贋作以上の真作】

 贋作と呼ばれたことがある。

 ユーバ・アインスは相手の攻撃を瞬時に解析し、自分の兵装に組み込んで再現することを得意としている。あらゆる戦術・あらゆる場面に適応した万能型の機械人形アンドロイドとして開発されたのが、ユーバ・アインスだ。

 しかし、所詮は真似ごとしかできない。それは否定できない事実であり、よってユーバ・アインスは『贋作』と呼ばれることがあった。否定も肯定もしないが、ユーバ・アインスはその言葉を事実として受け止めて、なにも言わなかった。

 自分のできることはたかが知れているし、それ以上の性能を求められても困るものだ。機械の体でできないことはできないもので、期待外れだと言われてもどうすればいいのか分からない。


「【推測】魔力駆動による人形。【提案】大量破壊兵器を採用し、一掃する。【質問】当機の戦術に関して是非を」

 ――【回答】是。

「【了解】兵装を展開する」


 ユーバ・アインスは純白の砲塔をいくつも展開して、その全ての銃口から兵装『超電磁砲レールガン』を射出した。

 光線が人形どもを薙ぎ払い、消し飛ばす。先ほどのように反射をしてくるだろうと予測したのだが、意外となにもしてこなかった。


「【疑問】なにかをしてくると予測したが」

 ――【報告】大量の熱源を感知。【推測】超電磁砲の模倣。


 なんだと?

 見れば、ユーバ・アインスの攻撃から逃れた人形が、幾何学模様を浮かばせていた。ユウが作っていたところを見たことがあるが、あれはおそらく魔法陣で判断してもいいだろう。

 魔法陣からバチバチと紫電が飛び散り、ユーバ・アインスは急いで防御の兵装を展開する。


「【展開】絶対防御イージス


 ユーバ・アインスの使う防御の兵装は二つあり、受けた攻撃をそっくりそのまま弾き返す『一方通行アクセラレーション』と受け止めるだけの『絶対防御』の二種類だ。

『一方通行』の利点は相手へすぐさま攻撃できるのだが、反射できる攻撃量には限界がある。『超電磁砲』と同程度の攻撃を受け止め切ることは、この兵装ではさすがに厳しい。

 一方の『絶対防御』であるが、こちらは単に攻撃を受け止めるだけで相手に攻撃する機能は持っていない。だが、ユーバ・アインスが使っているのは『一方通行』よりも『絶対防御』の方だ。

 この兵装の利点は、受け止めた相手の攻撃を解析できるというものだ。


「展開。雷撃魔法再現」


 人形から雷による攻撃が叩き込まれる。

 ユーバ・アインスの前方に展開された純白の盾が、相手から放たれた雷撃を余さず受け止める。ほんの少しだけ兵装が軋んだが、大した問題はなく全て相殺した。

 魔力で動く人形の群れは、次の攻撃を展開しようと準備しているようだった。――しかし、そうは問屋が卸さない。


 ――【演算開始】【相手の攻撃を解析中】【解析完了】【兵装展開】【兵装展開完了】【命名】【波状雷撃エレキテル】。


 自分の中に組み込まれた演算装置が起動して、すぐさま相手の攻撃を解析する。そうして出来上がった兵装を展開し、ユーバ・アインスは相手に攻撃を叩き込む。

 ユーバ・アインスを中心として、雷撃が波のようになって人形の群れへと襲いかかる。空気中に紫電が弾け、人形たちが吹き飛んだ。


「【感想】出力はこの程度か。【嘆息】魔法の再現というものは難しい」


 相手の攻撃を再現するユーバ・アインスでも限界というものがある。

 彼の攻撃は所詮『再現』に過ぎないので、本物と比べると出力はかなり落ちる。魔法の再現など以ての外だ。科学で証明できる事象であれば問題なく再現できるだろうが、ここは科学で証明できない異世界である。

 女神の奇跡や魔女の魔法が常識として罷り通り、ユーバ・アインスのように鉄の塊が異端として扱われる世界。


「【報告】敵性勢力の沈黙を確認。状況終了」

 ――【否定】強い熱源反応を感知。敵はいまだ生存状態にあります。


 ユーバ・アインスは驚愕した。

 見れば確かに人形たちは起き上がり始めていて、関節があらぬ方向に折れ曲がっていたり、頭が凹んでいたりと凄まじいほど損傷しているのだが、それでもなお人形たちは立ち上がった。

 つるりとした頭部に赤い光を爛々と輝かせて、人形たちはユーバ・アインスを睨みつける。その姿の恐ろしさは、敵兵と相対した時とは比べ物にならないぐらいだ。


「【驚愕】まだ起き上がるのか」


 倒したはずなのに、魔力駆動の人形とはなんとも面倒である。

 ユーバ・アインスは嫌悪感で無表情をほんの少しだけ歪むが、仕方がない。倒さなければならないのならば、倒すべきだ。

 今度こそ破壊してやると兵装を展開させようとしたのだが、


「合体。合体。合体合体合体合体合体合体合体」


 人形たちが気持ち悪いぐらいに集合し、互いに抱き合い、そしてなにか巨大な人影に組み上げられていく。

 ユーバ・アインスは絶句した。まさかこんな、本当におとぎ話のようなことがあるとは思わなかった。

 そうして魔力駆動の人形たちは群れをなし、集合体となった。


「合体。破壊。敵殲滅」

「…………【受諾】いいだろう」


 ユーバ・アインスは自分の兵装をありったけ出現させる。

 集合体となった人形たちを見上げて、ユーバ・アインスは敵の認識を更新する。


「【更新】敵対勢力を、超大型兵器と認識。対軍用兵装の準備を開始」


 ユーバ・アインスはあらゆる場面の戦場に適した機械人形として開発され、そしてあらゆる戦場を制してきた実績がある。

 先ほどの兵装よりも幾分か巨大な兵装を展開させながら、ユーバ・アインスは言う。


「【嘲笑】そのような巨躯にならなければ相手を圧倒できんとは、程度が知れる。【宣言】当機の戦闘を見せてやろう」

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