第2話

 死のうと思って死ぬ奴は世の中に幾らでもいる。

 辛いと思う事は何度もあって、不思議と幸せな事は思い出せなくなっていった。

 平和な日常は自分を満たす事は無く、刹那的な生死の境を踊る画面の向こうの傭兵達に思いを馳せた。


 いつ死ぬのか何処で死ぬのか。

 本当にわからないものだ。


 ◇


 目が覚める。

 意識が混濁している。

 自分は、生きている?


 濁った視界に見えるのは砂礫が続く、河原。

 手をついて重く感じる身体を起こす。

 月と、星と、流れ行く川。

 ただ何処にでもある景色。

 でも、この景色を長い間見てこなかった。

 疲れて疲れて、ただ汚れた地面だけを見ていた。


 ズボンのポケットを探る。

 いつも持っていた、スマホを、この時間を写真に納めたくて。


「あれ?」


 空のポケットを探る。

 そもそも、『スマホ』とは……。

 ここは、いや、自分は誰だ?


 ◇


 途方に暮れる。

 記憶がおかしい。

 しわしわの手が視界に映る。

 自分は、あの世界で死んだ、と思う。

 そして自分は、この世界で、生きて来た、と思う。


「ッ……」

 

 長く、とても長く自分の名前を言った事が無かった。

 だからふと思い出したその名前が、自分でも誰のものか解らなかった。


 何故死ななかったと、涙が流れ出した。

 どうしてまだ生きているのか。

 誰も必要としない自分が、何故まだ生きているのか。


 行く場所のない自分は、生きる意味の無い自分は。

 どうしたらいいのか。




  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る