第21話 晩餐会

デュオラント様の突然の来店の翌々日、一通の招待状が届きました。


醜態を曝した詫びと美味い酒を飲ませてくれた礼がしたいという名目で、城での晩餐会の招待だ・・・


パートナーと一緒に是非来てほしいという内容だ。


日時は3日後・・・フィリアンを連れて行くしかないか・・・


今から服を仕立てては間に合わない!


「フィリアン!城から晩餐会の招待状が来た!ドレスの用意すっからこっちに来てくれ」


そう言って、フィリアンを呼び出し、アマゾンでドレスを調べる・・・


パーティードレスなんぞ俺に聞かれても知らんわ・・・


本人に選ばせるしかあるまい・・・城の晩餐会なんぞどんな服を選べばいいか見当もつかん!


・・・そうだ!俺はアレにしよう・・・


コスプレ衣装からチョイスする無謀な作戦に出る事にする・・・


一応・・・元冒険者だから、軍服系で埋没できる程度に貴族っぽい感じのもいいかな・・・と探していく。


・・・そうだ!【龍啼クのが〇ぽ】にしよう・・・そう決めて衣装を発注・・・ん?質なんてのも選べるのか・・・


勿論最高級・・・


俺のチョイスを見ていたフィリアンは類似ページから【龍〇クのハク】の衣装を選択する・・・


悪目立ちしそうだ・・・まぁいいか、今回限りだろう・・・


そんな感じで衣装を決めて本番に備える。


余談だが、ハンティにも衣装をねだられた・・・お揃いがいいらしい・・・



フィリアンにテーブルマナー講習とダンスを覚えさせねば・・・


って俺の方もだな・・・明日の定休日は申し訳ないがレベリングでスキル上げだ・・・


ダンススキルとマナースキルをそれなりに上げておかんと・・・


手土産は・・・めんどくさいからドンペリでいいや・・・箱入りの2本セットの奴・・・


もう、チョイスも適当である・・・


面倒事を持ち込みやがって・・・


それが正直な感想だ。


そして、俺には参加者が誰なのかって情報も入ってきてない・・・


とんでも上級貴族が揃い踏み・・・なんて事になったら、俺はともかくフィリアンは飯の味なんてわからんぞ・・・


大きなため息をつき・・・ポツポツ来るお客様の相手をしながら、この日は過ぎて行った・・・



そして翌日!


フィリアンとペアでレベリングの予定だったのだが、ハンティがどうしても着いてくると珍しく我儘を言ってきたので連れて行く事に・・・


言っておくが遊びじゃなくてレベリングだからな・・・休日出勤手当も出ないんだからな・・・


・・・なんて言いつつも昼食の準備は怠らない・・・


サンドイッチを大量に作って用意してある。


飲み物は現地でアマゾンからペットボトルを購入だ・・・



そんなわけで、ひっさしぶりのダンジョン探索である。


勇者曰く、俺と一緒のレベリングだったら北の森のダンジョンが効率がいいとアドバイスをもらった・・・


ついてくる二人には電動ガンを持たせておく。


全員遠距離の近づく前に撃てってパーティーだ。


バランス悪い構成だな・・・


装備的には俺が愛用のコンポジットボウ(勇者印)防具は全員ドラゴンレザーアーマー(これまた勇者印)という装備チート


ハンティを心配した賢者があれもこれもとアクセサリーブーストをしているという・・・


フィリアンもカズキからなんだかんだと受け取っていた・・・


過保護すぎんだろ・・・ただの雑魚狩りだ・・・


フィリアンとハンティーがBB弾を当てたのを確認してから弓で射貫く


基本はこれの繰り返しだ。


取得経験値増加とか・・・勇者達の強さの秘密の一端を知ることになった




いいペースで狩れている・・。教えてもらった狩場は俺にとってはかなり格下で、


安全だけどそんなに経験値も悪くないという都合がいいポイントだ。




コツコツとマナーとダンスのスキルを上げていく・・・俺とフィリアンだけじゃなくハンティもだ・・・


まさか着いてくる気か・・・?・・・まさか・・・な・・・


そうして15時頃まで狩りをして、まぁこれなら恥はかかないだろという所までマナーとダンスを覚えたので帰る事にする。


スキルシステムって凄いな・・・


ゲームでは上げないと戦えなかったり作業と化していたが、


こう現実になってしまうと恩恵に感謝しか出てこない・・・


家に戻ってダンスの練習、晩御飯はマナー練習用にフルコースを試してみよう・・・


まぁ、総菜コーナーとかフル活用するだけだが・・・



ってなわけで帰ってくる。


とにかく、ダンスの練習用にワルツとタンゴ、クイックステップからメジャーな曲を数曲購入


購入した衣装に着替える。


おっ!二人とも可愛いじゃん!


「うん、よく似合ってる、可愛いよ」


このセリフ、ややポイント高くね?


「ありがとうです、はるさまもかっこいいですよ」


ハンティは素直な反応、フィリアンの方は・・・


「恥ずかしいです・・・」


顔を真っ赤にしてモジモジしてる。


そんなところは俺的にポイント高い(笑)



準備ができた所で店内のコンポに曲をかける


フィリアンを相手にステップを確認・・・


恥をかかない程度にステップが踏めればいい・・・


身体の奥底から湧き上がるスキルの感覚を頼りに体を動かす・・・


ヤバ・・・レベル上げすぎた?俺たち上手くね?


そう思えるくらいフィリアンとのダンスは綺麗に決まっていた・・・


うっとりしたフィリアンの表情にぐぐっと来るものがあったが、まぁ、冷静に・・・


ハンティからも一曲お願いされる。


休業日の店内に音楽が鳴り響き、交代で踊る俺達だった・・・


俺は交代してませんが?休みなしですが?



その後、厨房へ行ってカトラリーを使うことを前提とした料理を用意する。


必要なテーブルセッティングをみんなでやっていく・・・


元々、テーブルマナーは学生時代になんとなく覚えたから、とりあえず一通りの料理をテーブルに並べての食事にする。



うん・・・半端な知識だったテーブルマナーがスキルのおかげで間違いを正し精錬された動きになる。


フィリアンやハンティーも大丈夫そうだ・・・


ってかこの子達どこに出しても恥ずかしくないんじゃね?


贔屓目に見ても優秀だわ・・・


「まぁ、これなら大丈夫か・・・」


そう言って練習を終わりにする。




晩餐会当日


さすがに徒歩で登城はまずいだろうと、ハインデル様が馬車を出してくださいました。


・・・これって借りができたって事か?


一緒に乗っておられるご婦人はハインデル様の婚約者でしょうか?


俺達に合わせて既にドレスアップしてくれている。


おっし!俺達の方が地味だ!!


思わずガッツポーズ。


「お初にお目にかかりますミスルトウの店主ハルヒト:サカナバと申します、こちらはフィリアンと養子のハンティです。」


フィリアンの立場を言わない・・・勝手に嫁か婚約者と思ってくれる。


「わたくし、ハインデル様の婚約者でヴェリーネと申します。ランパウロ侯爵の長女ですわ」


綺麗で優しそうだけど、強そうなオーラを感じる・・・冒険者としての勘だ・・・


「いや~僕らの衣装派手かなと思ったのですが、安心しましたよ」


思わず本音が漏れる・・・


「大丈夫ですよ、仕立ても素晴らしいです」とは婚約者のヴェリーネ様



ちなみにハンティと同じ立場だがフェルは工房から出てくる気配もない。


テーブルの上に飯は用意しておいた・・・



歩いたってそんなに距離は無いだろってのを馬車で向かう・・・


それが貴族という物らしい・・・


俺の思考とは相いれんわ・・・




あっという間に城に到着する。


手土産を執事さんに渡した後、少し待たされて大広間に通される。



まだデュオラント様は来てないようだ・・・


派手ではないが一風変わった衣装に注目を集める俺達・・・


ん・・・選択ミスったか?



そんな場違い感のする会場だったが、しばらくすると男性の声が通る


「デュオラント:ヘーゼルド:トワイライン様ご到着」


そう言って扉が開きデュオラント様が入ってくる・・・


一度会場を見渡すと俺達を視認したのかニヤリと笑進んでいく


「デュオラント様御着座!」


その声と同時に男性は片膝をつき頭を下げ、女性は男性より頭が下がるくらいまで腰を下ろし頭を下げる・・・


この体勢、女性の方が辛いだろうな・・・そう思うが、フィリアンもハンティも堂に行った振る舞いである。


勿論俺も無作法者とはいえ同様に頭を下げる・・・


「皆の者、面を上げよ」


そのままの姿勢で顔だけデュオラント様に向ける。


「本日は、美味珍味を集めてみた、無礼講とする故、みな、盛大に楽しむがいい」




隣に位置取っていた男性が、全員にグラスがいきわたったのを確認すると


「トワイラインの繁栄と栄光に!」


その後全員で「「「乾杯!!」」」


と言って最初のグラスを飲み干す。これがこの国の流れらしい。


フィリアンとハンティは果実水、俺は赤ワインだった。


俺の知る赤ワインより渋みが強く雑味があるが酸味は抑えられてる物で、ガバガバ飲みたくなるって程じゃない。


順番的には平民の俺は一番最後になるはずなんだが、ハインデル様とヴェリーネ様に連れられて比較的早くデュオラント様の所に挨拶に向かう。


「本日はお招きに預かりまして、まことにありがとうございます。それにうちの者まで同席を許可していただき感謝いたします。」


フィリアン、ハンティと俺の3人で礼をする。


「うむ、先日は世話になったからな」と言って笑う


「ハル殿、こちらが我が父でフォーセリア公爵であります」


ハインデル様が緊張した面持ちで俺に紹介する


「お初にお目にかかりますフォーセリア公爵閣下、ミスルトウの店主ハルヒト:サカナバと申します、こちらはフィリアンと養子のハンティです。」


三人揃って礼をする。


「うむ、倅に話は聞いている。珍しい酒を飲ませてくれる面白い酒場だとな、機会があったらワシも寄らせてもらおう」


「ワシも行ったが、なかなかに美味かったぞ!グラスランドの秘酒は懲り懲りだがな・・・」


そう言って苦笑い・・・アレは俺悪くないよね・・・ハインデル様がプッと吹き出し、デュオラント様が軽く睨む


「美味しいお酒もたくさん用意してますので・・・」


そう言って誤魔化しておく。


「御来店、心よりお待ちしております。」



「しかしデュオもハルヒト殿の店に行ったのか」


気さくな関係らしい・・・


「あぁ、ハインデルに聞いたら居ても立ってもいられなくなってな」


などと話は続く・・・


結局、自分が面倒を見ると言い始めて、商業ギルドのランクをSに


年会費はデュオラント様が出してくれることになった・・・


面倒事の匂いしかしない・・・おかしいぞ?


それでも感謝の気持ちを形式的に述べその場を後にする・・・


「ハル様、緊張しました・・・多分生まれてから最大の緊張でした・・・」


疲れた表情のフィリアン


「ハルさま、これでおすみつきだね、よかったね」


無邪気なハンティ・・・でもそれはリスクも高いんだよ・・・と心の中


「そうだね、堂々と商売ができるね」


いや、別に今までもこそこそ商売をしてる気はないが・・・




挨拶回りが一通り済んだのかハインデル様がこっちに来る。


「楽しんでるかい?」


そう言って爽やかな表情を見せる。


「えぇ、ハンティもお菓子を先程から山盛りにして食べてますよ・・・」


結構な量を皿に盛ってるが、食べ方が子供とは思えないくらい優雅に嬉しそうに食べていて、みんな微笑ましいってくらいにしか思ってない・・・


ちなみに俺もフィリアンも結構食ってる・・・


ちょくちょくご婦人にフィリアンが話しかけられてるが・・・


それでもみんな美味しい物を食べて満足そうだ。


「ハル殿が不利益を買うような事はしないよ、これからもお節介させてもらうし・・・」


「はぁ・・・」


わかるぞ!わかってるんだ・・・俺は


恩が貯まったらフェアリーズネクターを飲ませろって事なんだろ・・・


「だから・・・な、いい感じに恩義が貯まった頃にまたフェアリーズネクターを・・・」


と何かを訴えかける眼差しで見てる


「わかりました・・・ケイン経由でフェアリー達にもなんか贈って恩を売っておきますよ・・・」


遠回しにネクターの量を増やせと圧力をかける感じ・・・通用すれば・・・だが・・・


「いや~楽しみだなぁ~」


本当に嬉しそうなハインデル様でした・・・



なんかいいタイミングで会場に音楽が流れ始める。


ダンスタイムらしい・・・


デュオラント様も奥様と踊り始める・・・ん!?結構うまくね?


フォーセリア公爵も奥様と・・・みんなメッチャ上手いんですが・・・


これが貴族の嗜みか?


ハインデル様とヴェリーネ様も綺麗に踊っている・・・


・・・


・・



多分これは養育の差だ・・・


階級が上がる毎に使えるお金も先生の質も良くなっていく・・・


見せつけるためってのもダンスには含まれてるっぽいな・・・


って・・・こっちをチラチラと挑発的に見るデュオラント様、


お前ら平民に踊れるもんなら踊って見ろって感じだな・・・


苦酒の恨みか?


よ~しやったろ~じゃん


「フィリアン、踊るよ!」


そう言って広い空間の方に行く


ダンスをまともに習ってない下級貴族達が驚いた顔でこっちを見てる・・・


「ハルさま、つぎはわたしとね」


・・・これはハンティ


ワルツのリズムは異世界でも共通か?


そう思いフィリアンの手を取り一礼し踊りだす。


ヒラヒラ揺れる衣装とハーフエルフの奇麗な顔立ちが相成ってとても幻想的な雰囲気を醸し出す。


ステップも完璧だ!


こっちを見て悔しそうな表情のデュオラント様


おやおや・・・大人気ない・・・ってお前が言うなってツッコミ、ありがとうございます(笑)


ちょうど1曲終わる・・・


ハンティに交代だ


「あの子が踊れるの?」みたいな声があちこちから聞こえる・・・


デュオラント様、驚くのはこれからだ!


そう言わんばかりにハンティと2曲目のステップを踏む


父と子、微笑ましく見える身長差、だがそれすらも可憐な妖精と見まごうようなハンティのステップ


小さくて軽いからジャンプアクションも抱きかかえるのもオーバーアクションでできる


着地と同時に拍手も起こる!


目が合うデュオラント様に力いっぱいドヤ顔してやりました!


ふっふっふ、そのために昨日レベリングに行ったんだ・・・


この後、ハンティ、フィリアン、俺にご指南をと言ってダンスの申し込みがかなりきました・・・


そして最後の曲


俺のお相手はエルディラント伯爵家の令嬢アーリア様


しっかし、俺の相手なんかより結婚相手を探せと言いたい・・・


・・・だが、フィリアンやハンティとは違うキレのある動き


自信があって披露したかったんだろう・・・


そして披露できるパートナーが居なかったんだろう・・・


そんなうっ憤を晴らすかのようなダンスはやたら注目を集めていた・・・


額に汗が滲み、疲れが出てきた頃、最後の曲が終わる


抱きかかえる形でのフィニッシュ!


会場全体が俺達に拍手と歓声を送る


「とてもお上手でしたわ、これほどまでとは思いもよりませんでした」


全力で踊れて嬉しそうに話すアーリア様


「ありがとうございます。とても楽しいひと時が過ごせました」


「次がありましたら、またわたくしと踊ってくださいませ」


そう言って離れて行った・・・




そうして晩餐会は無事に面子を保ったまま終わるのだった・・・




後に聞いた話エルディラント伯爵家の令嬢アーリア様は『天使の踊り手』という異名を持つ


舞踏会の有名人だったらしい・・・

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冒険者を引退してバーのマスターになりました ぜーたまっくす @extant7007

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