第20話 領主ご来店

「あの時、勇者との同行を拒否し、市民に紛れた者・・・ハルヒト:サカナバか・・・」


軍人でもないのに度々名前の出てくるハル・・・気にならないわけがなかった。


それゆえに領主はハルの調査を命じたのである。



決して多くは無い支度金を持って城下に下り、勇者の協力もあって店を出した・・・あの男・・・


あっという間に冒険者ギルドでランクを上げワイバーンを単独討伐するほどの力・・・


最初は小僧という報告だったが、グラスランドの可能性を指摘、抗争の黒幕にベンニーニャがいる事を仄めかす。


獣人やエルフ、ドワーフといった亜人とも友好関係を築く・・・あの男・・・


あの気難しいフェアリーが住み着くくらいは害の無い男・・・


書かれた内容は一般的には異常ともいえるが、異世界からの召喚者となれば納得もいく・・・



その上、フォーセリア公爵のハインデル、エルディラント伯爵家の令嬢とも交流を持つ・・・か・・・




調査書に目を通し呟く・・・



「今一度、おうてみるか・・・」


ミスルトウに行ってみることを決意する・・・もちろんお忍びで・・・だ。


この領主もまた他世界の領主の例に漏れず、お出かけが好きな人物だった・・・



そして今に至る・・・


ハインデル様を引き連れてのご来店だ・・・


仕入れていたぺルフェクションをボトルで出し、好きなように飲んでもらう・・・



「ハル殿はこの先どうするおつもりか?」


唐突な質問・・・どんな意味を持つのか?


「私はこの店を切り盛りして趣味のお酒に携われれば満足なのですが」


怪訝そうな表情・・・


「力もコネも場合によっては権力すらあるのにか?」


いや・・・権力は無いだろ?あるのはハインデル様や勇者であって俺じゃない・・・


「私なんて一介のバーテンダーですよ」


なにやら考えてる領主様・・・やめてくれよ・・・面倒な事に巻き込むのは・・・


異世界チートで俺TUEEEEE、からの成り上がりなんてのは求めてない・・・


平穏と安全が一番だ・・・奴隷としてフィリアンがいるが、女をはべらせるハーレム願望も無い。


今までを見てもらえばわかるだろ?店員以外の扱いはしてないぞ・・・


ハンティを性的な目で見た事は一度も無い!断言できる!!


フィリアンは・・・元々俺好みだから買ったってのもあって、若干エロ目で見た事はあるが・・・


店を持つ以上の野望は最初から持ち合わせていない。


強いて言えば、美味い酒を手に入れたいってくらいだ。


その辺りを正直に言う。


「店主殿は欲がない・・・その気になったら大臣にだってなれるだろうに・・・」


しみじみと言うハインデル様だが、ある意味納得の表情で頷く・・・


「どんな勘違いをされているかわかりかねますが、今のこの環境や立場に満足しております。上を目指す気はありませんよ」


そういって笑ってやる。


そこまでの会話はある程度予想の範囲内だ、自覚しているが、危ない橋を渡ったのも理解してる。


グラスランドの一件には余計な口を挟みすぎた・・・



「ところでハル殿よ、なんでも珍しい酒を手に入れたそうだな・・・」


ハインデル様め・・・フェアリーズネクターの事を話したな・・・


しか~し、そんな事もあろうかと脳内シミュレートはできている!


「お耳が早いですね、とても貴重な物が手に入りましたよ」


「では・・・それを頂こうか・・・」


クックックと、俺は心の中で笑う


「本当に飲まれるのですか?」


「無論だ、是非出してほしい」


ご期待にはお応えしましょう!


「かしこまりました」


確認は取ったし文句を言われる筋合いではない!


ショットグラスに濃い緑色の酒を注ぐ・・・


グラスランドのおばぁちゃまから買い付けた苦酒だ・・・


フェアリーズネクターだと思ってたハインデル様は怪訝な表情・・・


そりゃそうだろう・・・フェアリーズネクターの、濃い黄金色の酒ではなくおもいっきり緑の酒だ・・・


「どうぞ・・・」


そう言って出してやる。




不敬だと思われてもいい!あれは出さないってハインデル様にも幾度となく言った!


権力を笠に傍若無人な振る舞いはこの店ではさせない!


それが誰であってもだ・・・


・・・と言いながらもエルディラント伯爵令嬢のお茶会はやったわけだが・・・


いや、女性に逆らう気は基本的に無い・・・


あれは権力者だろうがなんだろうが・・・雰囲気で負ける・・・


ともあれ、領主は苦酒に口をつける


ショットグラスをクイっと一気にあける・・・


「!?  ゴホッ ゴホゴホッ」


咽る領主、困った顔のハインデル様・・・


「水を!なんだこの酒は!ものすごく苦・・・ああ、ありがとう」


水を一気に飲み干す


「先日手に入れたグラスランドの秘蔵の酒です。主な素材は各種の薬草ですので健康にもいいですよ」


ハインデル様も口元を抑え笑いを堪えている・・・


この領主に思う所があるんだな・・・


スッキリサワヤカな笑顔でこの酒の講釈を垂れてやろう・・・


「この酒は、グラスランドで古くから伝わる製法をそのままに作っている物で、今となっては作り手も少なくなり、

あの集落で作ってる方と偶然知り合い無理を言って分けてもらった貴重な酒なのです。」


まぁ、ハインデル様も手に入れられた事から、中に入れさえすればどうにか手に入るレベルだが。


「この酒を造ってる老婆が言うには、これを飲み続けてる限り、後300年は生きられそうだと申しておりました。

グラスランドの長寿の秘訣なのかもしれません」


俺は知っている・・・飲まない奴も長寿なのだ・・・種族的なものに違いない・・・さすが長寿の妖精の系譜・・・



予想していた物とは全然違う物であったが、間違いなく『最近手に入れた貴重な酒』である。


健康長寿の秘酒とも言われれば文句も言えない・・・




意地悪ばかりでは心象も悪かろう・・・と一杯の酒を作り始める。


この苦酒を使ったカクテルを・・・



この苦酒、自分の記憶にある中で似ている物は・・・


アブサンである 香りと苦みが強い癖のある酒って意味ではどっちもどっちってレベル


色も似てるしな・・・


そんなわけで作るカクテルは『アイリッシュ・ブラックソーン』


レシピは


 アイリッシュ・ウィスキー 30 ml

 ドライ・ベルモット 30 ml

 苦酒 2 ml

 アロマチック・ビターズ 2 ml


これをステアで完成する・・・が、ここは見た目を派手に演出するためにシェイカーを振る


ロックグラスに注いてお出しする。


「グラスランドではそのまま飲むのが主流のようですが、こうして飲めば口当たりもよく健康維持にもなるかと思います」


奇麗な透明感のある赤茶色のカクテル。


興味をひかれたのかハインデル様も同じ物を注文してくる。



「これはいいな・・・」と領主の言葉


「辛口を好むデュオラント様にはよろしいのではないでしょうか?」


ハインデル様も乗ってくる・・・そうか!領主の名前はデュオラントか・・・覚えておこう・・・




その後も

気を良くしたデュオラント様は色々な酒を楽しそうに飲みまくった・・・


護衛の方も苦笑いだ・・・


グデグデに酔っ払い、フラフラになっているデュオラント様を護衛の方が介護する


支払いは、ハインデル様がしてくださいました・・・


上司が飲んでる中、仕事とはいえ見てるだけでさぞ辛かっただろう・・・と


帰ってから飲んでください・・・と心付でジョニーウォーカー黒ラベルを一本渡すとそれはもう嬉しそうに礼を返してくれた



ジョニ黒は飲み口、味共にしっかりとしながらも飲みやすいウィスキー初心者にもお勧めできる一本です。


ウィスキーはどれを選んでいいかわからない・・・でも試してみたいって言うのなら値段もお手頃ですし、こちらを試してはいかがでしょうか?



そうして要介護のデュオラント様は御帰還なされました・・・

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