第14話 ポーション工房


今日も朝からてんやわんやである・・・


仕事中毒のドワーフ御一行が朝食をとりにきたり・・・


うちの開店は10時なんですがねぇ~~~


朝の準備をしてたらガンガンとドアを叩く・・・


夜襲かと思いましたが?




開店前だからって言い訳でパンとスープとサラダで許してもらいました・・・


また昼に来るそうです・・・


勇者達の飯を見たら・・・きっと欲しがるんだろうな・・・




そんなわけで昼飯の仕込みも始めてる。


今日は・・・カレーだ


うちで一番大きい鍋で作る。


フィリアンも器用にジャガイモの皮をむく・・・


店内の掃除はハンティが頑張ってる。


任せてスマン、美味しいカレー作っておくから頑張ってくれ


作るのは甘口、辛みマシマシミックススパイスは別に作る・・・


ふむ、野菜の皮むきはフィリアンに任せて大丈夫そうだな


ベヒモス肉も残ってるからポーク?カレーだ


俺は肉の処理にかかる・・・




使うのは市販のカレールー


お子様カレーを除けば、市販カレールーで断トツの甘口!


林檎とハチミツがフォーリンラブの例の奴だ。


インスタントコーヒーと生クリームを入れるのが俺好みだ・・・


玉ねぎと肉は軽く炒め、野菜は水から煮る・・・


水から煮ると野菜からもダシが出る!




ある程度火が通ったらスキルの感覚に任せてルーと肉を投入


しばらくコトコト煮込んどけばいい・・・




米の準備もしておく・・・10キロ釜で米を炊くわけだが、米を研ぐのも水圧洗米機任せでOKだから楽々だ


むしろ少人数の時の方が人力だったから手間がかかる


って感じで昼食のスタンバイはOK




開店までもう少し時間があるな、チョコレートを数粒持ってフロアの方に


一応掃除のチェックをする


「うん、奇麗になってるね、お疲れ様」


と言ってチョコを渡す


「開店まで休憩ね、カウンターでそれでも食べてて」


嬉しそうな笑顔・・・まだ、緊張してお客様に笑顔を向けきれてないけど、慣れてきたらおっちゃんキラーになるぞ・・・


高いボトル入れさせる系になったりして・・・


バーじゃなくてキャバになったり?


いやいや・・・さすがにそれは本意じゃない・・・


厨房のフィリアンにハーブティーを入れて、俺もコーヒーで一休み




そして開店時間


「ハンティ、営業中のパネル出してきて」


「はいです」


パネルを出したら営業開始だ!


まぁ、オープン待ちする人もいないので例によってまったりスタートだ


開店してしばらくすると冒険者ギルドのギルドマスターがやってくる


「いらっしゃいませ」


カウンターにドカッと座り込む


「暖かいコーヒーで」


「かしこまりました」


たわいもない会話をしばらく続けているとギルマスが語りだす


・・・今日は朝から勇者一行がスラムの子供を何人も連れて出かけたそうだ・・・


どうやら本気でポーション工房の設立を目指すらしい・・・


安全に採集ができるくらいまで育てるのか?


いや・・・次も見据えてる・・・


おそらく・・・薬草の安定供給の為、栽培を目指すってとこか


農業スキルも取らせる気か?


フェルの方もいい感じにレベルも上がってきてるって言ってたし


今も昨日足りなかった分を補填しに行ってる。


あの兄妹は別に俺の奴隷じゃないから搾取するつもりもない、


衣食住を自力で賄えるようになって欲しいだけだ。


ポーション職人になれば一生食っていけるだろう・・・


お膳立てをしてやるだけで十分だ。


ダンジョンピープルから薬草を買ってフェルに卸す。その差額だけで利益は十分と言える。




「スラムのガキ共の事は俺も気になってはいたんだが・・・」


「彼らの状況が状況ですし、そこは自己責任でやってくしかないと思います。俺は基本傍観者ですから」


言ってしまえば他人である、ダンジョン探索をやってるわけじゃない俺にとってそもそも接点すらないわけで


俺が何かをする義理も義務もないんだが、勇者に巻き込まれてる現状が少々気に入らないのも事実


環境は与えられるもの、その中で何をするかは自分次第・・・である


代金いらないから石投げさせてほしいとか、無力なりに上を見ることができるなら、


あんな人生を諦めた目をすることもない・・・結局は自分の人生である・・・


なんて言うと好感度ダダ下がりになるだろうが、危害を加えてない事実がある中での悪感情と


何もしてないという事実はぶっちゃけイコールである。


そう毎回毎回気まぐれで助けるかって話だ・・・


「まぁ、勇者達がなにやらやろうとしてるから、ハルも巻き込まれると思うがな」


「うちの子達で手一杯ですって、ほんっとに・・・」



しっかし・・・魔族が攻めてきてる中、勇者に時間の余裕があるのだろうか?すごく疑問だ・・・


MMORPGの廃人プレイ並みにレベリングしろとは言わないが、


俺が勇者なら少しでも多くレベリングするぞ・・・


どうもこの世界の人間は強くなる事に貪欲さを感じないんだよなぁ・・・


それって俺がゲーム脳だからか?


チビ達が少しでも強くなって魔族への戦力にするのだったら勇者達の行動もまぁ理解はできる。


まさか・・・ポーション作成も戦略的思考からか?


フェルにエリクサー開発とは言わずともハイポーションの作成まで持っていくのか?


高位素材は勇者達が集めるから作れ・・・的な!?


いやいや・・・考えすぎだろう・・・


十中八九、商業ギルドの会員である俺の名前を使って取引させたいだけ・・・


そう考えるだけにしとこう・・・面倒事でこれ以上時間を費やすのは断固としてお断りだ・・・



勇者に資金を出してもらってるから強く言えないんだよなぁ・・・


ここは資金を貯めて、社員寮は自分で建てる必要があるな・・・


とはいえ今の客入りでは限界が見えてる・・・


さて、どうするか・・・



考えがまとまらないうちに昼過ぎ・・・


勇者、大工一行の襲撃・・・ならぬご来店である。


とりあえずカレーを食わせる。


「フェルはいい感じにスキル覚えたぞ!」


カズキがドヤ顔で言ってくる


当のフェルはげんなりした表情だ・・・


「ハルが商業ギルドで工房の権利を受ければバッチリだな!」


・・・何故に俺が・・・


「チビどもの薬草からポーション作ってギルドに卸して、俺達が用意した素材からハイポーションを作って俺達にって感じで」


君達、うちの子を便利に利用しすぎだろ・・・


フェルとハンティは俺が拾ったうちの子だ・・・


「ハイポーションの量産まで行けたら長屋の貸しはチャラでいいぜ」


「その上でハイポーション1本毎に決まった金額をフェルに出すから」


もういいや・・・考えるのをやめよう・・・


「チビ共に薬草の栽培をさせようとも思ってる」


ほら・・・予想通りだ・・・


「俺達の名目で農地を用意してやらせる予定だ」


勇者の畑に手を出す愚か者はいないって事ね・・・


どうせ賢者が結界を張るくらいするんだろう、盗みに入った奴の悲惨な末路が目に浮かぶ・・・


「農地のそばに家を用意すれば社員寮はそれまで間借りする感じで」


ん?・・・悪くないんじゃね?得しかしてないんじゃね?


「んで、この店の前で下級ポーションの露店をやらせたいんだが」


こんな所じゃ客来ないって!商売なめんな!!


「表通りに屋台を出した方がいい」


勇者印のポーション販売所って感じで・・・


「それをするには、ハルが露天商の責任者になる必要が・・・」


しまった!また俺だ!!


「いや、君らが商業ギルドに登録した方が速いし安全だろ?」


「なんかあったら呼び出されるのは勇者として迷惑だ」


むっ・・・俺ならいいってか!


「その点ハルなら基本店にいるから連絡つくし・・・屋台の利益も総取りだぞ」


その分人件費も責任もかかるわけだが?


「農地が用意できて生産体制が整って、なおかつ初期投資は全部そっち持ちなら、その時に話を持って来てくれ」


薬草の栽培なんてのが簡単に出来たら採集依頼なんてギルドに来ないだろ?


自分達がどれだけ安易に考えてるかもう一度よく考えろって思うわ。


「それでいい!早急に取り掛かる!」


「なんでそこまでするんだ?」


賢者が1つため息をついた後に話し始める


「魔物に足を食われて歩けない子供とか見ちゃうと、ハルも今の現状何とかしたいって思うよ・・・」


そりゃきついな・・・できれば見たくない光景だ・・・


「薬草栽培は俺が精霊の加護でどうにでもなるから安心しろ!」


賢者ってスゲェ!なにそのチート・・・成功が約束されてるようなものだ・・・


だが・・・そこまでの規模だと・・・


「露店じゃなくて店舗にした方がいい、新築しなくても貸店舗でポーションの倉庫と受け渡しカウンターさえあれば狭くてもいい」


理由は、盗難対策とトラブル防止だ


そして必要になるのは、店番を任せる以上信用ができる者、


いつも監視していられるわけじゃないからそこは絶対だ。


勇者達にその話をすると、納得の表情で了承、計算のできる奴隷を購入してくるらしい・・・


そして勇者が奴隷を使うのは外聞が悪いとの事で主を俺に設定するとの事・・・


やれやれ・・・人の命を預かりたくはないんだがな・・・生活の面倒も見なきゃだし


そんな話をして・・・時間は過ぎて行った・・・




一週間後・・・


俺は商業ギルドのギルドマスターから呼び出しを受ける。


営業中だが、昨日の休みのレベリングでフィリアンに日中の接客は任せられるようになっている


家の魔石エネルギーコンセント化はまだ手つかずだが、業務用冷蔵庫は設置した。



呼び出し理由は、勇者達が店舗を抑えた事、貸物件ではなく売りに出てたのを購入したらしい・・・


そこの責任者が俺である事、ポーション販売店の認可について、農地の購入、そこに建てる長屋の依頼の件、


滅茶苦茶なのは全部俺が責任者であるという点・・・


ついでに奴隷購入の仲介もギルドがさせられる点


そりゃ・・・呼び出されるわ・・・


どういうつもりか!って商業ギルドのマスターに詰められたわ・・・


そう言われても、どうもこうも・・・勇者達の暴走です・・・としか言えんわ。


まぁ、目の前に現金積まれて、要求すればNoとは言えなかったのだろう・・・


とりあえず、商業許可はあっさり下りた・・・さすが勇者のコネ・・・


奴隷の方も数日中に連れてくるらしい・・・


その奴隷は勇者が半日のパワーレベリングで薬学と計算、接客を仕込むらしい・・・・・・


この世界ってSPがあるからスキル上げって意味では便利な世界だ


これでポーション工房の準備が整った・・・




・・・とはいえ、勇者に寄生してお膳立てしてもらってのこの状況、


俺だったらもっとこうする!なんて言われそうだ・・・




いや~、店の雰囲気を楽しんでくれるお客様相手に、のほほ~んと営業してたいんですよ・・・


これが本音です。



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