第15話 薬草畑とハイポーション


その日の夕方・・・フェルが錬金の道具を大量に持って帰ってきた。


勇者に買い与えられたものだそうで、これから届く薬草でポーション作りに入るらしい・・・


地下の空き倉庫をフェルの工房に貸し出すのが問答無用で決定となり・・・


まぁ2部屋ある倉庫もインベントリのおかげで片っぽしか使ってなかったからいいんだが、


あっ、掃除道具を取りに来た・・・そういえば使ってなかった倉庫の掃除はしてないなぁ・・・


かなりホコリが貯まってるだろ・・・


何度もバケツの水を汲みに来て必死に掃除してる。


ふむ、レベリングのおかげで、できなかったことができるようになり、それが自信に繋がったんだろう。


今のフェルは目標に向かって突き進む『男』の目をしてる。


ここは生暖かく見守ろう・・・



しっかし結構大荷物だな・・・


運び入れた後も水を汲んだりとせわしなく動いてる・・・


今日の飯は力が湧くようなものにしてやろう・・・


そう決めて店内をフィリアンに任せて俺も厨房に入る。





ーーーーーーフェル視点ーーーーーーーーー




かなりホコリが貯まってるなぁ、いっちょやりますか!


そう呟いて掃除を始める。


やばい・・・キリがない・・・


そう思える程、手つかずの床は汚れてる・・・


でも、やらなきゃ!


自分の頬をパシッと両手で叩いて気合を入れる。


「錬金術師・・・ポーション職人かぁ・・・」


捨てられた獣人だと自覚した俺が、必要とされる仕事につける・・・


それも、かなりのエリートコースだ・・・


作り始めたらかなりのスピードで裕福層の仲間入りができるような仕事である。


そう考えたら、たった一部屋の掃除なんて苦労でも何でもない!




妹と一緒に生活ができて、今まで食べた事もない素晴らしい食事を与えられ、雨に濡れ寒さに震えながら寝る事も無い。


勇者様に作業着も買ってもらった・・・少し早い開業祝だって言ってた・・・


俺みたいな野良にこんなに良くしてくれる・・・


あの時ハルヒト様に会えなかったら・・・


お腹をきゅうきゅうと鳴らせて泣くハンティに途方に暮れてた俺・・・


ハルヒト様に会えなかった時の自分を想像してしまう・・・


どう考えても今頃は犯罪者か死体だな・・・


「やめやめ、今の自分に感謝して、できることに集中しなきゃ!」


その後メチャメチャ掃除した・・・




俺は、そんな環境を与えてくれたハルヒト様には一生頭が上がらないだろう・・・


一生感謝しながら恩返しをするんだ!


そう心に誓うフェルだった・・・





ーーーーーーカズキ視点ーーーーーーーーー




商業ギルドで面倒事を押し付けた後、いつもの3人で農地予定地全周に木の柵を作っていく


勇者の高レベル木工スキルとインベントリのおかげであっさりと柵は出来上がる


「マサノリ!結界を頼む」


初登場!賢者の名前だ(笑)


「了解・・・むんっ・・・」


柵のポイント毎に置いてきた魔石が光る


無詠唱で農地全体を囲う巨大な結界が張られる。


「四大聖霊よ、この地に恵みをもたらしたまえ・・・」


赤、青、緑、黄色の薄い光の玉がふわふわと飛んでいく


「これで土地は豊かになって、ここに入るには許可証代わりの魔石が必要になるんだ」


魔石ペンダントをジャラリと取り出す


「渡しておくよ、足りなかったら言ってくれ」


カズキに渡すと気だるそうにマサノリは帰っていく


「万能だよな・・・俺よりチートじゃね?」


いや・・・お前ら全員大概やぞ・・・




耕したりするのはあくまで仕事であるから勇者一行は手を出さない。


そこまで楽をさせる気は無いのだ。


「採集組と農業組に分けなきゃな」


採集組はとりあえず栽培できるようになるまでの間、フェルがポーションを作り始める為に必要で、


他は全員この雑草生え茂る荒れ地を開墾する事になる。


精霊のおかげで栽培がはじまれば余裕ができると思うが、それまではビタ1文の金にもならない。


1日8時間労働、昼食付で銅貨5~6枚、そんな感じでダンジョンピープルを雇う予定だ


「さすがに畑にするには何日もかかるだろうな・・・」


農地を見てため息をつくカズキだった・・・





ーーーーー再びフェル視点ーーーーーーーー



「やっと終わったぁ~!」


見違えるようにピカピカになった床と壁


掃除道具を片付ける為に上に戻る。


ハルヒト様が笑顔でジュースとお菓子を出してくれた。


隣にちょこんと座るハンティ・・・やっぱり俺の妹は可愛いなぁ・・・


「おにいちゃん、おそうじおわったの?おてつだいいる?」


笑顔で聞いてくる妹・・・抱きしめたい・・・


「大丈夫、今終わったと所だから」


そう言ってジュースを飲む。


「えへへ、おいしいね、おにいちゃん」


俺も笑顔を返し頷く


今日はとにかく荷物だけは運び込まなきゃ・・・


ハルヒト様に迷惑をかけるわけにはいかないのだ!


美味しいお菓子とジュースで一息入れた後、リビングの方に置かせてもらってる荷物を少しずつ運ぶ。


新品の錬成板や大鍋、魔力コンロなどを丁寧に配置する。


今まで取り貯めてた薬草も持って来る。



かなり広いと思ってた部屋が結構手狭になる・・・


棚とかもそのうち買わなきゃいけないな・・・



そう思うフェルだったが、無いものは仕方がない、先立つものも無い、


「とりあえず下級ポーション作ってみよう」


まずは薬草を刻む・・・とにかく刻む・・・ひたすら刻む・・・


あらかた刻み終えると結構な時間が過ぎていた。



刻んだ薬草を大鍋の中に投入


スキルの感覚に任せて水を入れ魔力コンロで煮始める


煮てる間に低級の魔物の魔石を水の分量に合わせて袋から取り出し石臼で粉にしていく


これが疲れるんです・・・


ポーションの材料なんて基本これだけ


薬草が煮溶けるまで煮込んで冷まして魔石の粉を混ぜて最後に錬成版を使って錬金術を使うとポーションになる


薬草はともかく魔石の質と錬金術師のスキルがポーションの質を決める


用意していた魔石が全部粉になった頃、薬草の方もいい感じに煮えている。


コンロの火を止め冷ますために放置する。


「とりあえずはここまでかなっと」


薬草を刻んだ作業台と包丁を洗った頃ハンティが呼びに来る


「おにいちゃん、ハル様がご飯だって」


「わかった~今行く~」


そう返事をして店のフロアに向かった・・・


勇者様たちもみんな揃ってる


「遅くなってすいませんです」


「錬金の途中だったんだろ?誰も文句言わねーよ」


そんな優しい雰囲気が妙に嬉しい・・・


「どうだ?足りないものはあるか?」


カズキ様の問いに俺は考える・・・


「基本は揃えてもらったので大丈夫ですが、これから素材が増えると棚とかで整理した方がいいと思います。」


今は床に並べてるだけだが、上にも物が置けるようになればもっと荷物が置ける


「ん、わかった後で工房見せてもらって買ってきてやんよ」


これも初期投資っていうやつなんだろうか?


待遇が良すぎて心苦しい・・・


下級ポーションが作り終わったら、いよいよ中級ポーションの作成だ・・・


これで少しでも勇者様に恩返しをしなければ・・・


そんな感じで話をしてるとハンティとフィリアンさんが飯を運んでくる。


「フェルが頑張ってたから今日はステーキだ!A5和牛だぞぉ~美味いぞぉ~」


目の前にいい匂いの肉が鉄板に乗せられて置かれる


ご飯とサラダも置かれる


「レアにしてある、そのままでも食えるし焼き足りなかったら右端の焼き石で自分で調節して食ってくれ、鉄板と焼き石は熱いから触らないように」


ハルヒト様は初めて食べるステーキの注意事項を教えてくれる。


ナイフとフォークをつかってカチャカチャ音を立てながらも頑張って食べる


!? なんだこれ!?肉が蕩ける様に口の中に広がる・・・


切り口は表面しか火が通ってない生のようにも見えるが舌の上で人肌よりちょっと温かい程度の温度はある・・・


「美味しいです!って凄すぎてこれ以上言葉が出ないです!」


俺が一人で感動してる・・・周りを見渡すと、カズキ様達は目を閉じて肉の旨味を味わっている・・・


ハルヒト様は一人で頷き、何かに納得しながら食べている・・・


横を見れば、フィリアンさんがハンティのステーキを賽の目にナイフで切ってくれている


「後はフォークで刺して焼き足りなかったらここにこんな風に当てれば焼けるからね」


そんな風に優しく説明してくれてる。


ハンティにとっても凄くいいお姉さん・・・なんだと思う。


みんなゆっくり一噛み一噛み食べていく


こんな食事風景は、はじめてかもしれない・・・


カズキ様なんて、いつもはがっつくように食べてるもんなぁ・・・


「ご馳走様でした・・・」


幸せの時間が終わった・・・


みんなが食べ終わったらハンティとフィリアンさんが食器を片付けていく。


それに合わせて俺はカズキ様と一緒に工房の方に降りていく


「ふ~ん、そっちが作業場で、この辺りに棚を置く感じか?」


部屋を軽く見てカズキ様が確認を取る。


「そうです。踏み台があれば高くても届くので高さがある方がいいんですが」


「そか、脚立と棚を注文しとくよ、後、これは中~高級の魔石な」


そう言って袋ごと床に置く


「わかりました!頑張ります!!」


そう返すとカズキ様は戻っていった。


鍋を見るといい感じに冷めている・・・


そうだ!今受け取った魔石で試してみよう


俺は一本分だけ鍋から汲んでおき、濃い色の魔石を石臼で挽く


汲み取っ手置いた分に高級魔石の粉を投入する・・・


緑色の液体が紫色に変わる・・・


全体を丁寧に混ぜ合わせ、納得がいったら錬成板の上に持っていく。


錬成版に手をつき左手から右手に魔力を流すイメージで力を籠める・・・


錬成版が光り紫の液体が濃い青色に変わっていく・・・錬成版の光が消えた頃、液体がキラキラと光を放つようになる。


完成っと・・・


予想より品質の高そうなポーション・・・


薬物鑑定で確かめる・・・


『ハイポーション、品質最高級、効果、部位欠損回復も可能』


とんでもないのができちゃったよ!


俺は駆け足で店に戻る!


「ハルさんハルさん!これ見てください!!」


まだ勇者様方も居るというのに大慌てで走り込む・・・


「ん?できたのか?どれ・・・」


先日、行商人が来た時に獲得しておいた鑑定スキルを発動する


「・・・」


無言でカズキ様に渡す・・・


あれ?褒めてくれないの?


「・・・」


受け取ったカズキ様も無言で驚いてる・・・


そして


「これは世の中にホイホイ出せる品物じゃねーな」


「作れる奴ってのが目を付けられるのは確実・・・だな」


え?そんなヤバい感じなの?


「今後のハイポーションは全部俺が買うから他の奴に絶対売るな」


カズキ様の真剣な目


「はい、わかりました」


なんか間違ったかな・・・


「後、あんまり作るな・・・俺の金が足りんから・・・」


いくらで買うつもりなんだろ?


「・・・白金貨5枚だ・・・」


俺の頭が理解できない数字が来た・・・


「これと同じ品質最高級なら白金貨5枚、部位欠損が付いてないもので金貨5枚だ」


白金貨って銅貨1000枚ですよ?わかってるんですか?って言いたくなったが声が出ない


「とにかく、お前はスゲェよ、よくやってくれた」


「うん、やったねフェル!おめでとう」


ハルヒト様にも褒められた・・・嬉しさで笑みが浮かぶ


「ただまぁ、しばらくは下級だけ作っててくれた方がいいだろうな」


イマイチよくわかってなかったが言われた通りにしよう


「はじめての一本は記念にハルが持ってろよ」


カズキ様がハルヒト様に渡す。


「預かっとくよ」


そう言ってインベントリに入れた


俺はとにかく目標だったハイポーションが作れた。


その事実だけで十分だ!


「よ~しもっと頑張ろう!」


やる気に満ちた俺を見て笑顔で頷くハルヒト様


「はははっ、程々にな・・・俺より稼ぐ気か?」


だってさ(笑)

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