第9話・GWだぜ! ヒャッハー! その3

 お昼間近になって、ようやく野良仕事が終わり、嵐斗は部活仲間である女子と帰路についていた。

 嵐斗と同じSWAT使用の黒の迷彩服を纏った前髪で目元が隠れるような肩まで伸びた黒髪ロングヘアの少女で右目に眼帯をしており、右手に包帯を巻いている。

顔立ちは整っていて地肌は白いが、眼帯や包帯から焦げ茶色に変色している皮膚が見えるところ、火傷跡を隠しているのだろう。パッと見ではかわいい眼帯っ子だ。

「流石にこの格好は目立つんじゃない?」

 少女は嵐斗にそう尋ねると、嵐斗は「部長曰く「アーカム高校サバゲー部は野外活動では迷彩服という決まりがある」って話だから仕方ないだろ」と答え、思い出したようにこう言った。

「まあ、仕事着よりはゆったりとしてるからいいけどな」

 少女はそれを聞いて嵐斗にこんなことを聞いた。

「そういえば静留(しずる)さんから最近連絡ないよね?」

少女の質問に嵐斗はここ最近の仕事の状況を思い出す。

「そうだな……最後に師匠と一緒に事件を担当したのが今年の3月末の話だし、芽里沙(めりさ)さんがライブツアーで東北に行っていることもあって衣里子(いりこ)さんからの依頼も来てない現状だしな」

 だが、それを不満に思う嵐斗ではなかった。

「とはいえ、いつも事件や依頼ばかり来ても困るし、ゆっくり出来る内はこうやって部活動とかを楽しむよ」

そう言いながら嵐斗は左手首の腕時計を見た。時刻はちょうど12時、嵐斗は自分達がいる場所がG市の警察署近くであることを頭の中の地図で確認する。

「麻衣(まい)、警察署の食堂でお昼にしないか? 俺のおごりで……」

麻衣はそれを聞いて「別にいいけど」と言ってからふと思う。

「こんな格好してる学生が行けるような場所なの?」

麻衣の疑問もごもっとも今、嵐斗達は今、エアガンやガンベルトを装備していないとはいえ、背中にSWATの白の文字が書かれたSWAT使用の迷彩服を着ているのだ。

 だが、嵐斗は特に気にするような素振りも無く。

「まあ、俺がアーカム高校のサバゲー部に入部してることは兄ちゃんと姐ちゃん達も知ってるし、生活安全課の庄司(しょうじ)兄ちゃんと交通課の錐痲(きりめ)姐ちゃんに至ってはサバゲー部のOBだしな」

それを聞いた麻衣は「サバゲー部のOBと会ったの!?」と驚く。

「ちなみに警察署内のクラブで「G市哨戒班」ってチームを建ててる」

嵐斗はそう後付してから昼食を何にしようか口に出す。

「さて、何にしようかな? 普段はカツ丼を頼むんだけど、偶には違うのにしようかな?」

 それを聞いた麻衣は「結構メニュー豊富なんだ」と少し驚く。

「あそこの食堂のメニューは中学の時に食破したが、どれも旨いぞ? まあ、俺のお気に入りはカツ丼だな。あそこのカツ丼は胡椒を効かせたカツを甘めのお出汁で煮込んでるからすごく旨いんだ」

嵐斗がそう言うと「それを聞いたら余計にお腹空いてきちゃった」と苦笑いしながら言う。苦笑いする麻衣を見て、嵐斗は少し嬉しそうな顔で足並みをそろえながら警察署へ向かった

 一方、郵便局での用事が済んだ颯斗と依吹にて……

明日の事でいっぱいになりかけていた頭で、颯斗は不意にあることを思い出した。

膨らんだビニール袋を提げながらコンビニを出て、颯斗は思い出したことを依吹に尋ねる。

「そう言えば依吹、嵐斗が右頬にあの傷跡が残る怪我をしたのってアイツが中学1年の時だったよな?」

 不意な質問に依吹は「どうしたの? 藪から棒に」と疑問を持つ。

「いや、個人的に気になることがあってな。ところでどうだったか?」

依吹は少し気になりながらも答えた。

「あの引っ搔き傷の事でしょ? 確かに嵐斗お兄ちゃんが中学1年の時の事だよ」

 依吹の答えに颯斗は「原因は?」詳細を求める。

「嵐斗お兄ちゃんの幼馴染の麻衣さんにペンでやられたんだって、嵐斗お兄ちゃんは「俺に非があっただけだから気にするな」とか言ってたけど……」

依吹はそう言いながら嫌なことを思い出したような顔をして続けた。

「そのせいで嵐斗お兄ちゃん、この街にある大手のアイドル事務所の「神無月プロダクション」から受けてたスカウトの話をルックス面で断られるし、おまけにそんなことをした人と今じゃ付き合ってるとか本当に信じられない!」

前半の爆弾発言を聞き逃すことが出来なかった颯斗は思わず驚きの声を上げた。

「何!? アイツ、アイドル事務所からスカウト受けてたのか?」


・颯斗は語る

 いやはや、我が弟がアイドル事務所からスカウトを受けていたとは、元からスペックの高い奴だと思ってはいたが、そこまで行っていたとはな……

しかし、嵐斗の恋愛事情を少し知ることが出来たのは事実だ。

 下川 麻衣、最後に会ったのは小学生の時で、当時は肩まで伸びた黒髪を三つ編みでひとつに纏めていた可愛らしい顔立ちの子だ。

何が原因でそんなことが起こったのかは知らないが、根っからの正直者である嵐斗は決して親兄弟に嘘を吐くなんてことはしない。

俺も複雑な事情ながら恋愛をしている身だ……アイツもアイツで好きな子だから付き合っているんだろうし、あまり触れないでおこう。


 颯斗の驚きの声に依吹は両頬を膨らませ、ムスッとした顔でこう言った。

「でも嵐斗お兄ちゃんは「見た目だけで判断して人の話を聞かない奴らと仕事なんざこっちから願い下げだった」とか言うし、はっきり言って嵐斗お兄ちゃんの価値観が解らない。他にも良い人が沢山いるのに麻衣さんと付き合ってるのも「俺のルールだから」とか言い出すし、ワケが解らない!」

この後、家につくまで依吹の愚痴に付き合わされたのは、言うまでもない。


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