第18話【花吹雪国:姫の里帰り(旅路編)⑤】

 交渉に行った彼は、一刻(約30分)も立たず戻ってきたら、すでに戦支度を整えた姿でした。


 これは、話がついたということでしょうか?


「姫さん、話はついた」


 あっ、やっぱり。


「よって、俺はこれから山賊の討伐へ一人で行く」


「え? おひとりですか?」


 相手は、山城に立てこもる500人近くの武装集団です。いくらあずま殿でも、おひとりではいささか骨が折る状況ではないでしょうか?


「敵には、業を使える奴は居ないって話だ。それに今夜、この辺の天候は荒れる。強い風は吹くだろうし、そのうち雨も降るだろう。俺一人で十分だ」


 なぜ、天候が荒れれば、あずま殿一人でも十分なのでしょうか?


「りねん、話は聞いたな? 俺が討伐に行っている間、姫の護衛は頼んだぞ。おそらく、一刻程度で戻ってくる」


 これは、僅か一刻で山賊を討伐するという、意気込みでしょうか? 本当なら、どのような手を使うのか想像がつきません。


「その間は、絶対に姫さんのそばを離れず、敵が来ても耐えてみせろ。お前なら、出来るはずだ」


「確かに、承りました。私、りねん。若輩者ながら、この命に代えてもお守りいたします」


 その言葉を聞いたあずま殿は、あきれ顔を作り、


「バカ。それくらい、命を懸けなくてもやってみせろよ。出来ると思ったから、俺は行くんだ」


 こんなことを言ってみせました。


 この返しに、はじめはキョトンとしていたりねんですが、すぐに笑顔で応えました。


「はい、たしかに理解しましたよ」


 なんだか、お二人の関係は私が焼けちゃうくらい、いい関係のように見えます。


「じゃあ、行ってくる。二人とも、俺が居ない間はなるべく部屋に居ろよ。外に出るときも、一緒に行動すること。いいな」


 まるで、保護者のような物言いです。……いえ、確かに今は保護者のようなものですね。

 だからなのでしょう。これから危険な目にあうはずの彼は、安全地帯へ残るはずの我々を逆に心配しながら、山賊狩りへと向かうのでした。


 それから、半刻が経とうとした時です。真っ暗になった空に、赤い光が立ち上ったのを、部屋の中に居ながら確認できました。


「……何事でしょうか?」


 この事態に、警戒を強めるりねん。


「……部屋を出て、確認してみましょう。もし、山賊の別動隊が、この村へ火をつけたのなら、なんらかの対策をとらねばなりません」


 私の案を採用し部屋を出て、強い風が吹く外へ来てみると、そこで確認できたのはとんでもない光景でした。


「炎で、できた竜巻?」


 赤く燃える火が、渦を巻いて大きな竜巻を形成していたのです。方角は山を一つ越えた先の、山賊が居ると思われる地点。

 あずま殿が居る場所です。


「あずま殿は、大丈夫でしょうか?」


 異常に気付いた皆が、その異様な光景をぽかんと見ているしかないのでした。

 そのうち、雨がぽつりときたかと思うと、だんだんと雨脚が強くなってきました。その雨は、赤い竜巻のあるあたりがさらに強く、あっという間に竜巻を消し去ってしまいました。

 その光景に、軒先で目を奪われていると、いつの間にやら正面に人影が。


「なにやってんだよ、姫さんにりねん。部屋に居ろっていったろ」


 蓑もなく傘も差さないのに、なぜか雨に濡れていないあずま殿は、のんきな声でそんなことをいうのでした。

 私たちが目を奪われたあの怪奇現象も、彼にとってはなんでもないことみたいです。


「あずま殿、ご無事でなによりです。それで、山賊は?」


「姫さんのご期待に応えて、殲滅してきたぜ。まあ、城跡周辺燃やし尽くしたから、ちょっと被害がデカくなったけどな」


 なるほど、どうやら先の赤い竜巻は、あずま殿の仕業のようです。

 ……えっ?


「え、ええ? あの赤い竜巻は、あずま殿の仕業だったのですか?」


「おいおい、俺以外にあの場であんなことやれる奴はいないだろ。それとも、あの現象が自然現象だとでも思ったのかよ?」


 確かに彼を題材にした本では、竜巻を起こしたなんてものもありましたが、実話とは思いもしませんでしたよ。


「それはどうもすみません。私もまだまだ、貴方のトンでもぶりには慣れていなかったようです」


「はあ? ……くっくっく、はっはっは。そりゃ、俺も悪かったわ」


 その私の発言の何が面白かったのでしょうか? 彼は高笑いをしながら、私の頭をわしゃわしゃと撫でまわしてくるのでした。

 ……なんなんですかね? もう。

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黒髪黒目の国の金髪碧眼のうまら姫 ー疎まれていますけど頑張ります!ー @gengorousan

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