第17話【花吹雪国:姫の里帰り(旅路編)④】

「姫さん。尋問は終わった。聞き出したことは、草一郎と庄屋に伝えておいたぜ」


 夕日もほとんど沈んだ頃になって、あずま殿はやっと尋問を終えて戻ってきた。


「それで、尋問のご結果は?」


「ああ、どうやら連中、500人規模の相当デカいただの山賊だったみたいだな。なんでも、ここから山一つ越えたところにある廃山城に居を構えているらしい」


 私の質問に彼がした返事は、思ったよりも大事です。


「そんなに大きな山賊がいたとは知りませんでした」


「なんでも、最近侵害者の活動が減衰して安全になったんで、徒党を組んで活動し始めたらしいぜ。まあ、どこまで本当なのかは、一人尋問しただけだから、定かじゃないけどな」


 この返しで気になったことがあったのか、りねんが質問をしたそうにしています。

 なんでしょうかね? どこか、変なところありましたか?


「その結果報告は、あずま殿らしくない。いつもなら、もっと精査した情報しかとってこない印象なのですが」


 確かに、りねんの言う通りですね。なんだか、あずま殿らしくない不確かな情報提供です。


「りねんのいう通りだ。本当なら、あと二、三人は山賊を捕らえておけばよかったのかもしれないけど、そこまでの余裕なかったしな。俺としては、確認したかったことの是非だけはきっちりと知れたんで、問題ない」


 彼は、何が知りたかったのでしょうか? 私としては、そのことが聞きたいのですが、なんだか教えてくれなさそうな雰囲気です。


「後は、ここの藩主の問題だ。俺たちは予定通り、明日にはここを立って次の目的地へ向かうとしよう」


 えっ?


「山賊は、放っておかれるのですか?」


「そりゃ、俺たちには関係薄いことだしな。それに、今優先すべきことは、姫さんを桜乃里まで警衛することだ。山賊退治じゃない」


 それはそうなのですが、それではここが大変なことになるかもしれません。


「しかし、山賊は500人規模の組織なのですよね? 先の50人を引いてもまだ、450人はいます。残りの山賊たちは、帰らない部隊が気になってきっと探りにきます。もしかしたら、さきほどより大部隊を率いてくるかもしれません。そう考えると、放ってはおけないと思いませんか?」


「……あのな、俺は守護者であって侍じゃない。よって、山賊討伐は俺の仕事ではない。先の契約にもないことだ。だいたい、ここは姫さんの領地でも、幕府の領地でもないだろ? そこで、姫さんの関係者が無断で暴れたら、越権行為甚だしいぞ。旅先で偶然山賊と対峙したというのとは、訳が違う」


 確かに、彼が言うように、封建社会でできたこの国は鳴上国などとは違い、藩自体が独立国とほぼ変わらないほど地方への分権がなされている。そのため、将軍家といえども、容易には他藩で兵を動かすことはできない。


 ここでは、私が山賊を討伐する権限はないし、その役割が藩主であることは確かだ。

 けど、それでも、私がよく読む冒険物語に出てくるお節介な英雄は、皆を助けてくれます。

 それが、無責任な期待と甘えなのはわかってはいるのですが……。

 それでも、彼ならなんとかしてくれるかもと、私は思ってしまいました。


「……はあ、仕方ないな。少し、関係者と話してくる。そこで話がまとまれば、討伐してきてやるよ」


「本当ですか?」


「話がまとまれば、な」


 そんなことを言う彼は、本当に面倒くさそうでしたが、同時に頼もしくも感じました。

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