第15話【花吹雪国:姫の里帰り(旅路編)②】

 絶対! あずま殿の馬には乗らない!


 そう、強く心に決めていたのに! 結局、私はその化け物馬に乗る羽目になってしまった!


「絶対に飛ばさないでくださいよ! 私、死んじゃいかねないですからね!」


 唯でさえ揺れが酷い馬にあって、これほどの巨体の馬です。その上下の揺れ幅も大きくなっていて、衝撃がすごい! まるで、終わらない地震です! 気分が悪くなってきます!


「飛ばしはしないよ。りねんがついてこられないからな。いやーけど、この曇天丸に乗るのは楽しいだろ。こんなに力強い馬は、他にいないからな」


 た、楽しくなんて、全くないんですけど! この馬、怖すぎなんですけど! この人は、なぜこんなにも平然と乗れるのですかね? 流石は規格外の英雄と、あきれるしかありませんよ!


「そ、そうですね。こんなすごい馬、私の馬が足を痛めたりしなければ、乗ることはなかったのですが」


「ハハ、曇天丸にビビッて足ふみ外しちゃっていたよな。いやー、こっちの戦馬って、兵と同じくらい練度が足りてないのか、未だに俺の馬になれないんだよなあ」


 笑いごとじゃありませんよ! ああ、私のかわいい愛馬は大丈夫でしょうか? たいした怪我じゃなければいいのですが……。


「全く、あずま殿の規格外ぶりに、私や姫さまはいつも驚かされてばかりです」


 隣を走るりねんの馬も、あずま殿の愛馬におっかなびっくりといった感じです。まあ、私と違って、りねんは乗馬がお上手ですから、馬が挫くようなことはありませんけど。


「こんなので驚いていたら、星海国に行ったら死ぬぞ」


 し、死ぬとは穏やかな表現ではありませんね。

 それほどの評価をされた星海国というと、この国の北西、鳴上国の北の隣国になる国でしたね。王者の国と言われ、あらゆる技術がとても発達していらっしゃるとか。


「はあ、貴方は褒めるとすぐひねくれたことを言う。もう少し素直になった方が、かわいげというものがありますよ」


 そんなりねんの忠告を、彼は肩をすくめて相手にしないのでした。……なんか、りねんが年上らしく忠告なんかしているのは、新鮮です。いつもは年上ばかりか、私のようなお偉いさんの相手で気を使ってばかりだからでしょうか?


 それとも、話し相手があずま殿だからでしょうか?


「……いいでしょう。それは置いておくとしまして、話を少し戻します。噂では聞いていますが、やはり星海国というのは、別世界のように技術が進んだ国なのでしょうか? 不勉強で申し訳ないのですが、あずま殿の知見をお聞きしたい」


 ……りねんは、のんきにあずま殿に質問なんかしていますけど、難儀している私が気にならないのでしょうか? というか、そっちの馬に乗せてくれないのでしょうか? こういう忖度しないところが、よく人に怒られる原因だとおもうんですよね。この子は。


「その噂は正しい。あの国の技術力は、他の国とは一線を画す。あの国は不干渉主義の上に、入出が厳しいから貴族連中でも実態を知らない奴が多く、りねんが知らなくても当然だ。俺もあの国へ行けたのは、外界への遠征人員に選ばれて、準備のために訪れた時くらいだな。おそらく、この国でも星海国へ入ったことある奴は、両手の指で足りるんじゃないか?」


 それは、少しおかしいような気がします。あの国は、不干渉政策を実施しているとはいえ、貿易は行っています。特に、侵害者用の軍事品は市場占有率が9割を超えていたはずです。


 これは、活発に貿易業者が出入りしていないと、達成できないのではないでしょうか?


「私も質問いいですか? ……星海国は活発的に貿易を行っていますが、それからするとその話は少しおかしくないでしょうか?」


「ん? ……ああ、そのことなら星海国が貿易の中継地点として、大陸の中心にある月夜見国を必ず中継させているからだ」


「え? 絶対ですか?」


 大陸にある月夜見国は、確かに貿易の中心地としてよく活用されている。この国も、他の国と貿易するときは、隣国相手だとしても中継させることが多い。

 これは関税がかかり無駄も多いのだけれども、中立国である月夜見国を中継させることで国同士の問題が少なく済むのが利点です。

 我が国でも、鎖国と呼ばれる締め付けの強い対外政策をとっているため、中継させなければならないことが多いけれど、それでも絶対というわけではない。

 はっきり言って、星海国のやり方は異常だと思います。


「ああ、絶対だ。値段の交渉なども月夜見国で行う。そこまで、徹底する理由は俺も知らないが、技術の流出を恐れてか、もしくは月夜見国に関税を稼がせて援助しているってところだろう。そんなわけで、星海国へ行ったことがある人間は、月夜見国に偏っているのが現状だ。まあ、あの国は大陸中を飛び回る連中が多いから、当然ちゃ当然だけどな」


 なるほど、勉強になります。その見聞の広さは流石です。だてに、大陸中を駆け巡って、草の根分けて侵害者を駆逐して回っていません。

 せっかく、お話を聞く機会ができたのです。もっと色々と聞いてみたいですね。


「それでは、私からさらに質問なのですが……」


「悪い。それは後回しにしてもらおう」


 えー? えー? えー? 

りねんの質問には答えて、私の質問は後回しなのですか? どういうことですか、それは。大した理由もなくそんな失礼なことをしたのなら、許されざる行いですよ。


「はあ、どうしてですか?」


 私の質問に、彼は険しい顔で返事を返してきた。


「今日、立ち寄る予定の村のあたりが、どうもきな臭い感じだ。煙が上がっている」


 それは、りねんも把握できたのか、彼女も険しい表情を作っている。

 簡単だと思っていたこの旅に、なにやら暗雲が立ち込めてきたようです。

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