九相図3

私とご主人様は、一つの思想で繋がった。私達二人は、共同の目的をもって先に進んでいく一つの存在となった。

私達はまず、チベット高地の寺院にある九相図を見た。

そこでは、絶世の美女が打ち捨てられ、青黒く腐り、血が滲み、虫が湧き、ガスによって膨らみ、腐り尽くした肉が野獣に食い荒らされ、骨となり、そしてその骨が朽ちていくさまが、鬼気迫る筆跡でもって描かれていた。

「九相図とは、何のために作られたのでしょう」

 私はご主人様に、そう質問した。

「九相図は、人の中にある性欲といった欲求を抑制するために、その修行のために作られたものだ」

「ならば、その九相図を美しいと思う人は、どうすればいいのでしょうね」

「恐らく、そう思う人間には、救いなど用意されていないのだよ。全ての宗教、全ての神々は、自身を慕う者達のために存在している」

「ならきっと、私達の間に神は存在しないのでしょうね」

「そうに違いないな!」

 言って、ご主人様は笑った。私もまた、静かに笑った。

九相図を見た私達は次に、チベットの山道をゆったりと歩いた。蒼の空に巨大な雲と峰が同じ風景の中に収まる、壮大な絵図だった。

私とご主人様はその中で、奇妙なものを見つけた。

「あそこ、鳥が集まっていますよ」

 私が見つけた場所では、頭の禿げた巨大な鳥が何匹も、白い何かの周りに集っている。

 ご主人様は言った。

「あれは、きっと鳥葬だな」

「鳥葬?」

「チベットのような地域では薪の元となる木が少なく、また土葬をしても分解されない。だから彼らはああして死者を草原にさらし、自然のままにするんだ」

「まるで、九相図そのままですね」

「そうだ。肉を食い荒らされ、そしてやがて骨だけとなる」

 私達二人は、山を歩きながら、鳥葬の行われる様子を三回ほど見ることとなった。

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