第4話如何にするか

「お主の働きぶり、見事であった!」

 相も変わらず影に潜ったままの我が忍にそう声をかけた。

 僅かに動いただけで、表情さえわからぬ。

 それでも、声が届いておるのならば今は良し。

 そのうち、影から出て会話までできよう。

 すると、影のままに赤い目が開いた。

 瞬きをして、揺れておる。

「お主の事を教えてはくれまいか。」

 ゆらり、ゆらり。

 その目を細めて、小首を傾げ。

「我が忍隊はもう見たか?」

 それには、こくりと頷いた。

 ほう、一応は見たか。

「お主の目で、あれは如何程か。」

 ふるふると首を振った。

 どうやら、「まだまだだ」というらしい。

 片手で腰辺りに線を引く動作をする。

 それから自分を指差して、その手で頭の上へ線を引く動作をした。

 これくらいの大差があるのだと、言いたいらしい。

「そうか……。では、他の忍は?」

 脛の辺りに線を引く動作を見せた。

 なんだ、影忍が強過ぎただけらしい。

 安心だ。

「お主の手で、強うすることは出来ようか?」

 両手を軽く広げ、まるで「さぁ?どうだろうか」という仕草をする。

「うむ、そうだな。彼奴あやつら次第よな。」

 こくこくと何度も頷く影に、微笑んでやる。

 言葉は無けれど、なんともわかりやすい。

 しかし、これでは独り言のようだ。

 はよう、声が聞きたいものだな。


 振り返ると、忍隊の一人が目を見開いて立っていた。

 丁度、影忍を忍隊に組み込んだ後。

 何かしらあったのだろう。

「早速、不都合か?」

「主…、あの忍を何故?」

 不満がやはり出おったか。

 早すぎたのかもしれぬな。

 どれ、呼んでみるか。

「影忍、来ぬか。」

 すると、上からすとんと降りてきた。

 忍は飛び退く。

「忍隊では、どうしておる?まさか、蹴倒すようなことはしておるまい。」

 それに顔を上げるだけで、応とも否とも言わぬのだ。

 だが、そんなことを流石にするような者でもなかろ。

「何が気に入らぬ?」

「正直に申しますと、我らからすれば伝説を警戒せざるを得ないものです。何かしら企んでいるのでは、と。それが、四六時中まるで観察するように我らを見続ける。これでは、」

「ふむ、落ち着け。観察は許してやってくれぬか。様子を伺わねば何がならぬか勝手がわかるまいに。」

 長く続きそうな不満の声を遮った。

 少しはこやつに隙間をやらねば。

 目を戻せば、顔を伏せておる。

 どこか、反省をするように見えるのは気のせいだろうか。

「影忍も、遠慮をしてやってくれまいか。あまりに観察をしておると、お互い息が詰まろう?」

 それにこくりと頷く。

 忍の方は溜め息を残して去った。

 これで少しはましになるとよいな。


 ふと、散歩をしておると陰の方で座る影忍を見つけた。

 何をしておるのだろうか。

 近寄れば顔を上げた。

「どうした?」

 それに答えはない。

 ただ、ぼんやりとこうして座って、どうしたのだろう。

 忍の屋敷におればよいというに。

 やはり、居づらいか。

 しかし、ここに座っておるというのも…。

 あの伝説に比べ、大人しいのは有り難い。

 それでも、これではならぬ。

「影忍、忍屋敷でおれ。このままでは、慣れるものも慣れまい。」

 仕方ない。

 それにこくりと頷いて消えていった。

 きっと、忍屋敷に戻ったのだろう。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る