第9話

連合王国北部スコートランド

「陛下方は既に潜水艦でカナディアに逃れられた。」


ロンディウムには絶対死守命令が出されており首相、ネヴィ・チェンバロンはロンディウムで死ぬまで戦闘する予定である。


「後任の首相は陛下の特命をもってウィストン・スペーサー=チャーチー卿になる。彼もチャーチー内閣要因や陸海軍主力はカナディアに離脱している。現在は国民防衛隊と残存陸軍のみで時間稼ぎに徹する。陛下方へ反抗の機会を残すのだ!」


ここに居るのは愛国者達。優秀な後身を逃し、帝国の覇権を阻止する為に、崩壊から逃れ、雌伏の時を待つ為にここで死ぬのだ。

全員が覚悟している。


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「Mayday!Mayday!敵大隊規模魔導部隊が浸透してきた!機動打撃部隊が見つかるぞ!」


『第807小隊行くぞ!帝国野郎どもを叩く!』


数時間前は我らが連合王国の誇りの本国艦隊が上陸を阻止してくれるはずだった。突破されたとしても少数で対処は可能なはずだった。上陸部隊を魔導部隊が視認した時点でその部隊が落とされ、その後機動打撃部隊が存在する方向の防空部隊からMaydayがひっきりなしに叫ばれる。


『連合王国将兵並びに臣民諸君、我々は帝国軍だ。早急な投降を要求する。』


「巫山戯るな!」


貴族の若い士官が眼下で対空砲を指揮しているのが見える。だが、部下の筈の平民の下士官から拳銃で銃撃され対空砲部隊は降伏する。


「連隊各位。連合王国への忠誠を示せ!我ら近衛魔導連隊の誇りを見せよ!」


『『我々は支援に回る。指揮を任せる。』』


二個大隊の支援。勝てるとそう思っていた。


『大隊戦友諸君、哀れな、ライミーがこちらに来たぞ。無論叩き潰す。』


『『『ヤー!』』』


『大いに結構。教育してやれ!』


敵部隊の指揮官は上手く部下を掌握している。士気は高く、練度も恐らく否、確実に我らより高い。統制射撃を示すハンドサインを出し、部下や支援の大隊達が統制された収束狙撃式を放つも異常な迄に早い、乱数回避機動でかわされる。

空間ごと焼き払うために爆炎術式と防核を全力展開するも、近づかれ不発に終わる。見ると大隊長らしき人物は必ず先頭にて指揮をしながら戦闘を行っている。

指揮官先頭。これは帝国軍魔導師を表すに最も適している。

常に先頭に立ち、退く時は最後尾にて退る。

故に将兵は敬意を持って従うのだ。

すでに魔力残量は無い。降伏を宣言し、指示された地点に着地した。


「貴官の官姓名を答えろ。」


「オルト・コールド大佐だ。近衛第1連隊の指揮官を務めている。」


「そうか。ひとつ聞こう。主力は何処だ?カナディアか?南方大陸南部植民地か?」


聞かれるか…。答える訳に行かない。


「知らん。私は聞かされていない。」


「嘘だな。貴官はカナディアと言った時に軽い反応を見せた。カナディアか。」


「っ、部下達を頼む。私は…」


「そうか。」


武器は取り上げられていたので自動拳銃を渡される。スライドを引き、チャンバーに銃弾を装填し頭にあてがう。

引き金を引くと乾いた音と共に意識は失われた。

永遠に。


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「第501独立重戦車連隊揚陸!」


「第671独立重駆逐戦車大隊揚陸!」


後方を叩き1度帰還していると、既に第1山岳猟兵師団に第2装甲師団、第3装甲師団、第4装甲擲弾兵師団、第5装甲師団が揚陸を完了していた。それの上級司令部である第1軍団司令部隷下の重駆逐戦車大隊と更に1個上級の第1軍の司令部直轄の重戦車連隊が揚陸を完了。師団隷下の重戦車大隊は既にその高火力を誇る主砲でバンカーを潰す。火砲の揚陸が始まり、海岸は既に確保。海洋国である連合王国には上陸された敵に対して有効な手段を選べなかった。

極小数の戦車は駆逐戦車や戦艦の艦砲射撃で叩き潰され、死滅。歩兵は少数残り奇跡的、或いは滅私的とも言える遅滞戦闘により制圧に3ヶ月かかった。

俺は彼らに敬意を評しロンディウム塔の屋根の上から敬礼を捧げた。


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1940.9.1その日は我々、ロンディウム市民にとって屈辱の日だった。

バッキーガム宮殿、ロンディウム塔から掲げられていた連合王国旗、ユニオンフラッグが降ろされ、新たに帝国国旗、赤と白と黒の三色旗に帝国軍旗、赤地に双頭の黒竜が描かれた物が掲げられた。

私達はそれを眺め、代々連合王国首都ロンディウムに暮らし、連合王国へ忠誠を誓い。愛国心を持つものとして、悲しかった、悔しかった。

だが、忘れないだろう。ロンディウム塔上空から激戦の地となった、ロンディウム市街地に敬礼を捧げたあの大隊の事は。


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「久しいな。少佐。」


「お久しぶりです、ルーデンドルフ大将閣下。遅まきながら昇進おめでとうございます。」


「構わん。貴官は戦地に居たのだ。そこでだ、本題に入ろう。」


「はい、ありがとうございます。」


「うむ、貴官の献策は合理的であり、今まで全て正しかった。更に戦地での働きは素晴らしいものであった。」


「ありがとうございます。」


「貴官には中佐への昇進と柏葉剣金剛石付騎士鉄十字勲章の授与が決定した」


勲章のランクアップ、陸大に進学も行われるだろう。


「ありがとうございます。」


「本来なら陸大に進学する物だが、私は貴官には必要無いと考えている。貴官の考案する戦闘教義ドクトリンは我々には考えすらつかず、陸大の教官では教えられる事は無いと思う。」


「いえ、閣下。小官は国際法課程を受講したいのであります。」


「士官学校の国際法課程では足りないのかね。」


「いえ、閣下、私は戦術を考え付くことは可能です。ですが、不可能な戦術を思いついても意味がありません」


「戦時国際法の資料を取り寄せよう。貴官の配属を伝えねばならなかったな。貴官とその大隊は戦技教導隊へ配属、そこから貴官は戦技教導大隊長兼参謀本部付特務研究員として奉職して貰いたい。戦術や技術、兵器その他に置いて貴官の右に出るものは居ないと思っている。」


オブラートにつつみながらも自派閥への勧誘。


「ありがとうございます閣下。私は失礼ながら閣下の事を父の様に思っていまして。」


この位のことは言ってやる。父の戦死を切っ掛けに入った軍だ。


「構わんよ。ところで私には君と同じ歳の娘がいてな。」


「はい。」


「英雄である君に会ってみたいと言うのだ。今日辺り構わないかね?」


「問題ありません。」


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私の父は英雄である帝国男爵ヨハン・フォン・クロイス少佐の上官です。私は魔導適正を認められたのですが、父は許してくれませんでした。


「父上、お帰りなさいませ。」


「ああ、ただいま。今日はヨハン君を夕食に招いた。挨拶しなさい。」


後ろには帝国軍魔導士官の正式軍装、黒のコートに首に騎士鉄十字勲章。自動拳銃を腰に下げ一礼する。野暮ったい、粗野な帝国軍人とは違い、洗練された気品を感じる。若さと帝都育ちと言う都会の若者はルーデンドルフ家の所有地には居ない美しさを感じる。


「…初めまして。ルーデンドルフ伯爵令嬢サリアと申します。ヨハン様よろしくお願いしますわ。」


「こちらこそ、初めまして。ヨハン・フォン・クロイス男爵です。帝国軍魔導中佐として奉職しております。」


現在は19歳の若きエース・オブ・エースにして帝国軍中佐。私の友人達も憧憬の念を抱く者は多い。


「ヨハン君きたまえ。夕食をご馳走しよう。」


「ありがとうございます。」


「サリア、彼をもてなしてさしあげなさい。」



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