第10話

サリアと言う少女は俺と同い年らしい。ファンと言うのは確からしく先程から姦しく質問を飛ばしてくる。


「小官は義務を果たしたに過ぎません。」


楽しげなのはこれからのキャリアを考え良いのだが、向かいでニコニコ微笑むルーデンドルフに取り込まれ過ぎるのも困る。リットン少将とも関係のあるのだから。しかも両者はガチガチのライバル。愛国心で協力はする物の団結はしない。


「して、中佐。貴官にはアルビオンに向かってもらう。」


「はっ、ご用命とあらば。命令は?」


「貴官には連合王国のモドレー卿と協力しエリーザベス殿下の即位を実現してもらいたい。」


はっ?あのファシストと?


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モドレー卿、事実ならモズレーか。大英帝国のファシストにてヒトラーと親交のあったエドワード8世の知己も得たサー・オズワルド・モズレー準男爵。この世界では帝国が勝利したが故に政権を握った幸運の人物。時代から考え、エリザーベスはエリザベス二世女王の筈。現代人としては馴染み深い人物だが。


「初めまして。貴官が帝国の英雄、悪魔ヨハン・フォン・クロイス中佐だな。」


ネームドとして登録され、登録名は悪魔。


「初めまして。オズワード・モドレー閣下。こちらは私の副官、マリア中尉です」


表面上はにこやかに握手を交わす。親帝国派として台頭した男だ。能力は未知数。慣れど連合王国の一派閥の長と言うのはそれなりには実力は必要。全くの無能では無いだろう。連合王国ファシスト同盟が無能の集まりではなければだが。

資本主義と米帝を信望する俺にとってファシストと赤は敵と言っても過言では無い。

寧ろ反共の盾として程度なら兎も角それ以外は速やかに撃滅すべきとも考える。だが、俺は組織の人間であり帝国軍に奉職する栄えある帝国軍人、仕方あるまい。


「よろしくお願いします。」


会談の内容は帝国側がモドレー卿の希望するエリザーベスの王政維持、モドレーを首班とする新生連合王国政府、新生連合王国の大陸同盟への加盟の3つを呑む用意があると明言する事に尽きる。モドレーが失敗すれば帝国軍の一佐官が勝手に言った事として処理される。その時処分されるのは恐らく俺ではない。


「成程、帝国政府へと感謝を伝えて貰いたい。して、貴官がエリザーベス殿下の即位に協力するで良いのだな?」


「勿論。我々は友邦。友人の願いは叶えられるならば叶えてやりたい物だろう。それに我々の利益にもなる。」


「帝国は戦争で不意打ちはしても外交で嘘は着いたことがないか。」


帝国の外交ベタを皮肉った台詞。だが、この場合は良い意味だろう。


「そういう事だ。」

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