第三話
「白雪姫、お前は一人で北の別荘へと行きなさい。そこである人を出迎えるように」
ある日白雪姫は主人からそう仰せつかいました。
彼が言うがままに白雪姫は馬に乗り、北にある別荘へと急ぎました。
指示通りに白雪姫はその別荘で人を待ちました。
しかしその別荘に入ってきたのは、屋敷にいるはずの主人の従者でした。
「白雪姫様、どうぞお許しください」
彼は白雪姫を見るなり、尖ったナイフを彼女に振りあげました。
白雪姫は悲鳴を上げて従者に懇願しました。
「私が何をしたというのでしょう。どうか助けてください」
白雪姫は顔を覆ってすすり泣きをしました。
しばらくして何の気配もないので、そっと顔をあげると従者もまた泣いておりました。
「お願いです。逃げてください。恐ろしい悪魔があなたを狙っております」
従者はとうにナイフを捨て、白雪姫の前に跪きました。
「逃げるとは、どこに?」
白雪姫は従者に問いかけました。
「私の隠れ家がございます。小さな小屋ですが私の兄弟が暮らしております。どうかそこに身を隠してください。屋敷に戻ってはなりません」
白雪姫は従者の言葉に従い、国の外れの小屋に向かいました。
こんなに遠くへ出かけたことの無い白雪姫は、疲れ果てて誰もいない小屋の中で眠りこけてしまいました。
「こんなところに綺麗な女の子がいるよ」
小さな男の子が白雪姫を眺めていました。
「ここに来るように言われたお姫様だよ」
傍らにいたもう一人の男の子が言いました。
「みんなで守ってあげなきゃいけないお姫様だね」
また別の男の子が言いました。
白雪姫があたりを見回すと7人の男の子が白雪姫を取り囲んでいました。
屋敷の主人は玉座に座り、従者から差し出された血の付いたナイフを眺めました。
白雪姫の唇のように赤いままのそれを手に取り、従者に下がるように言いつけました。
主人は知っていたのです。
従者が、白雪姫に恋い焦がれていたことを。
だからこそこの赤い血は彼女のものではないことを知っていました。
窓辺では、活けられた赤と白の薔薇が端から枯れ始めていました。
今は遠く離れた白雪姫が置いたものでした。
それを眺めながら、彼は少しだけ泣きました。
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