第二話

健気な白雪姫は自らの美しさに驕ることなく、主人となり替わった少年の言いつけを従順に守りました。

そして父の傍にいてくれる彼に心からの敬意を払いました。


白雪姫はいつものように主人の命令を聞き終えた後、深々と頭を下げました。

そして彼の顔を見上げました。

彼女の主人はいつもの不遜な表情を解き、ひどく悲しそうな顔をして白雪姫を見据えていました。

「何か失礼がございましたでしょうか」

白雪姫は取り縋りました。

その時にはすでに青年へと凛々しく成長していた彼女の主人は目をきつく閉じて首を横に振りました。

「なんでもない、さがりなさい」

白雪姫は目礼した後、彼の前から立ち去りました。



白雪姫はその日、屋敷の遥か彼方まで設えられた美しく壮大な庭で言いつけられたまま剪定を行いました。

幼馴染の庭師が彼女の傍で落ちた枯れ葉を掃除していました。

「あの悪魔は魔法を使って白雪姫様のお父様を腑抜けにしてしまったのだ」

庭師が白雪姫の傍らで彼女を憐れむように言いました。

「そんなことありません。彼は母を失った父を支え、この家について何もわからない私に代わって屋敷を守っているのです」

白雪姫は主人が好んで部屋に飾っている赤と白の薔薇を丁寧に扱いました。

花を愛でるように世話をする白雪姫を庭師が頬を赤らめて眺めていました。

「白雪姫様は人が良すぎるのです。このままではあの悪魔に殺されかねません」

白雪姫はより美しく咲いた薔薇を刈り取り、棘をものともせずに胸に抱きました。

そして庭師には笑みを返してそのまま屋敷へと歩き出しました。



屋敷の窓からこちらへ歩み寄る白雪姫の姿が見えました。

泥だらけの衣服を身に着けていても、彼女が抱えたどの薔薇よりもその顔は燦然と輝いていました。

最早この家の主人は鏡を見ることさえしなくなりました。

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