第33話 主従の契約!?

『ルナ視点』


 プールの底。


 魔法で気配を消して、朝からずっと潜んでいたかいがあったわ。


 まさかこんなにも早くチャンスが訪れるとは、思っていなかったわ。


 ここなら、誰にも気づかれずに彼と主従の契約を結ぶことができるわ。


 いちいち彼の同意をもらってから、首筋に噛みつくのは、はっきり言って面倒くさいのよね。


 主従の契約を結んでしまえば、気兼ねなく好きなときに生気を思う存分吸うことができるようになるわ、ウフフ。


 妾は前歯に力を入れて軽く舌を傷つけ、口の中に血を含むと、口移しで彼に妾の血を飲ませていく。


 あとは、何事もなく意識を取り戻せば、契約完了ですわ




++++++++++++++++++++++




『理沙視点』


 プールサイド。


「露璃村くん、露璃村くん、露璃村くん!?」 


 目を閉じ、横たわる露璃村くんから返事はなかった。


「王子さま、お願い目を上げて、目を開けてよ」


「ダイスケくん、ダイスケくん、わたしまだアナタから告白の返事をちゃんともらってないのよ。

 だから、こんなところで死んだから、絶対に許さないわよ」


「主さまがいない世界なんて考えられないわ」


「私が彼を助けます」


 幸い『人工呼吸』は習っていたし、他の誰かにやらせるのは嫌だった。


 だから早々に覚悟を決め。


 私は彼の鼻を抑え、アゴを上に向けさせて、少し開いた唇に自分の唇を重ねる。

 

 まさか、こんな公衆の面前でキスをすることになるとは思ってもみなかったけどねぇ。


「きゃあ!? 理沙さま、大胆。

 こんな衆人環視のなかでキスするなんて」


「みちる……そんなのに……ジロジロ……見ちゃダメよ」


「お、お姉ちゃん……」


 みちるさんが声をあげ、続けてありささん、殺妹も声をあげた。


 私は周囲の声を気にしないように努めて、5回ほど息を吹き込んで、彼の反応を待つ。


 続いて、胸部の圧迫だ。


 彼の男らしい厚い胸板に両手を重ねて、5度ほど力を込めると……っ……。


「んくっ……」 


 彼の喉が動いた!?


「うへぇ……っ……ケホっ……っ……ゴホッ……はっ……っ……」


 その瞬間、床に魔方陣が浮かび上がり、一際強い輝きを放ち。


 私と露璃村くんは、その光に呑まれてしまう。


『主従の契約は、無事に結ばれました』


 幼い女の子の声が聞こえてきた。


 さらに右手のこうには、『三日月のような紋章』が浮かび上がったわ。


『それは隷属の証です』


 それは、ほんの一瞬ことで、誰もそのことには気が付いていないみたいだったわ。


 バチバチバチっと拍手が上がり。


 おおっと、周りの野次馬から歓声が湧く。


 人工呼吸は成功し、彼は保健室へと運ばれて行きました。




『ルナ視点』


 まさか……こんなのことに……なる……なんて……。


 右手の甲に浮かび上がった『三日月の紋章』が目に入り、暗澹あんたんな気持ちになる。


 第3者が介入したことで、契約は上書きされ、主従関係が逆転してしまう……そんなことが……自分の身に起こるなんて、まったく予想していなかったわ。


 でも、ここで悔やんでいても現状は、何も変わらないモノね。


 


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