第32話 第一回 きゃあ!? ポロリもあるかもしれない。水上運動会の開始です

「第一回 きゃあ!? ポロリもあるかもしれない。水上運動会の開始です」


 司会者の声とほぼ同時に、俺は発泡スチロールの上を走る。


 バランス感覚には、自信があるんだ。


 この勝負……本気で勝ちにいくぜ。

 

 さらに腹の底にある丹田たんでんで息を練り上げて、内功により脚力を強化する。


 内功とは、特別な訓練を積んだ者だけが行使できる気の力のことだ。


「おお!? 姫川選手!? 速い!? 速すぎる!? まるで仙女のような速さだ」 

 

 えっ、うそ……ちょっと待って。


 何それ!? 聞いてないだけど。


 おい、マジかよ。


 武道を極めるために生まれてきた天才かよ。


 こっちは120%。


 まさに死ぬ気で走っているだぞ。


 それでも勝てないっていうのかよ。


 ちくしょう。


「まだ諦めるのは早いわ。

 王子さまには脱衣術があるもの」


「愛理沙お姉ちゃんの言う通りよ。

 主さまが本気を出せば、相手が理沙さまだろうと、素っ裸にすることができるはずよ。

 そうすれば、相手の戦意を削ぐことができるはずよ」


「ごめんね、ダイスケくん。

 わたしはお姉ちゃんの応援をするわ。

 だって、お姉ちゃんが負けるところなんて見たくないから」


「殺妹ちゃんには悪いけど、勝つのは俺だ」 


 俺は水着のポケットから『水風船』を取り出し、姫川さんに向かって、投げつける。   


「きゃあ!? 水着が溶けていくわ。

 イヤァアア!? こっちを見ないでぇ」


 この日ために開発した『水着を溶かすくん』だ。


 肌を一切傷つけることなく、水着だけを溶かすという優れものだ。


 できれば使いたくなかったが。


 この勝負は、絶対に負けるわけにはいかないんだ。


 悪く思うなよ。


「まったく甘いねえ、露璃村くんわ。

 この程度の小細工で、私に勝ったつもり」


 なんと!? 姫川さんは水着の下に『絆創膏』を貼っていたのだ。


 俺の作戦を読んでいたとでも言うのか? 


 どこまでも完璧で、隙のない女なんだ。


 クソ!? ここまでやっても勝てないのか? 


 この女は『武神』なのか?


「これに懲りたら、もう姑息なマネはやめることね」


「姫川さんそ、俺のことを見くびり過ぎだ」


「奥の手が一つとは限らないだろう」


「ま、まさか」


「そのまさかだ!? 見よ、俺の飛翔力を『ハイジャンプ』」


 ドン!? 天井に頭を強くぶつけた!?


 ここは屋内だったことをうっかりと忘れていたぜ。


 ブクブク……。


「やっぱりただのバカね。

 正々堂々と勝負していたら、結果はわからなかったに」


 結局のところ俺は……ただの噛ませ犬で、終わってしまった。


 ああ……ヤバイ!?


 目の前に光の粒子が乱舞し、意識がキモチよく遠のき始める。


 紛れもなく、酸欠の初期症状だ……コレ……。


 そして……視界がブラックアウトした。

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