CHAPTER 20

 ――かくして。ヒーロー達は各々の「世界」で、守るべき人々との再会を果たして行くのだった。あの戦いで止まっていた時間が、再び流れ出したかのように。


 私達の「物語」は、これでおしまいかも知れないけれど。彼らの「物語」はきっとまだ、始まったばかりなのだろう――。


 ◇


「しかし、意外だったな」

「何がだ」

「お前のことだから、こんな飽食な国に来たら怒り狂うと思ってたんだが」

「そんな必要はない。……収穫もあったからな」

「収穫だぁ?」


 そして。式に参列することもなく、早々に2121年の地球へと帰還していた、叢鮫颯人むらさめはやとさんと火弾竜吾ひびきりゅうごさんは――7月の陽射しをその身に浴びて、東京の海と街並みを眺めていた。

 22世紀に入ってからも地球温暖化の勢いはとどまるところを知らず、アスファルトの向こうに見える景色は、絶え間ない熱気に揺らめいている。


「……」


 一方。世間では夏休みが始まる頃であり、彼らの視界には笑顔を咲かせる子供達の姿が映り込んでいた。

 家族と手を繋ぎ、幸せな日々を送るその姿は――レザージャケットを羽織る2人の青年にも、微かな笑みを齎している。


 特に叢鮫さんは、この日本の街並みに対して深く思うところがあるのか――戦いの時のような冷淡さがまるで感じられない、柔らかな微笑を浮かべていた。


「俺の故郷に、飢餓で苦しむ子供はいないということ。……そしてこの国は大抵、何を食っても美味いということを知れた」

「ハッ、なるほどな。さすがは大紋だいもん博士の……」

「……?」


 そんな彼の横顔を見遣っていた、火弾さんも。人知れず、安堵するように口元を緩めている。

 決して、言葉にはしないのだけれど。彼も彼なりに、叢鮫さんのことを気にかけているのかも知れない。


「……いや、それは別にいいか。しかし相も変わらず、食い物に目がねぇ野郎だ」

「お前の減らず口も、収まる気配はなさそうだな」


 やがて、微かな笑みを向け合いながら。彼らは互いの愛車バイクに跨り――それぞれの「物語」に向かって旅立って行く。


「なぁ、言わなくて良かったのか? お前が『20年前の旅客機事故』から生き延びた、唯一の生存者だってこと」

「彼女もまた、あの事故で苦しんだ1人だ。これ以上悪戯に傷付ける必要はないだろう。……『過去』に拘ればのように、『今』を犠牲にしてしまう」

「へっ……カッコ付けやがって」


 ――私の知らない真実を、その胸に秘めたまま。


「……お前こそ、報酬はどうした。追加ボーナスがどうとか言っていたが」

「あん? あぁ……そうだなー、忘れてた。『門』も閉じられちまったし、請求書も出せねぇや。こりゃあ大赤字だぜ、なぁロブ」

『ピポピポッ!』

「……ふん、格好付けやがって」


 ――何の見返りも、求めずに。


 そんなヒーロー達の旅路は今も、続いているのだ。私の知らない、どこか遠い世界で――。



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