CHAPTER 14


 その時、叢鮫さんの口から出た「ロイドハイザー」という名で……私は思わず顔を上げた。


 とある途上国の紛争地帯で、長きに渡り陸軍を掌握し、独裁を敷いていたという世界最古の戦闘改人コンバットボーグ――ヴィルゴス・ロイドハイザー将軍。少し前に彼が死亡したというニュースを、地球で暮らしていた頃に見たことがあったのだ。

 当時ネットでは、CAPTAIN-BREAD――つまり叢鮫さんに倒されたのでは、と噂されていたのだが、結局真相は報道されないままだった。どうやら、叢鮫さんと面識があるのは本当だったらしい。

 だが、それなら今、私達の前にいる彼は一体……。


「……まさか、並行世界パラレルワールドか!」

「どういうことだ? 結城」

「別の可能性がある世界から来たってことだよ! 俺は元の地球……つまり『叢鮫がロイドハイザーを倒した世界』から、君を連れて来たんだ。でもジークロルフは今、『ロイドハイザーが叢鮫を倒した世界』から彼を連れて来たってことだ!」

「なるほど……残念だったな、老いぼれ。貴様の勝利など、あったかも知れない可能性の一部に過ぎないようだぞ」


 そんな私達の疑問は、輝矢君の解説によって解消された。叢鮫さんは皮肉たっぷりにロイドハイザー将軍を見上げ、その将軍も彼を冷ややかに見下ろしている。


「しかしあのジークロルフという男、なり振り構わないにも程があるな。わざわざ俺が死んだ世界から、貴様を連れて来るとは」

「私にとっては僥倖だったよ、ムラサメ大尉。また君の吠え面を拝めるのだからな」

「随分とイキのいい化石がいたものだな。この地で再び死を迎えさせてやろうか」

「2度目の決着、かね? 私はいつでも構わんよ、何度戦おうが結果は変わらぬ」


 一触即発、どころかすでに暴発しているかのようにも見えるやり取りだが――彼らは上位種の牙と爪を巧みにかわしながら、同時に蹴りを入れていた。

 上位種はすかさず反撃に移ろうとするが、それより速く顔面に盾を投げ付けられ――跳ね返ったそれをキャッチしたロイドハイザー将軍が、赤金色の甲冑を破るほどの勢いで、上位種の胸へと突き刺してしまう。

 交わす言葉は物騒だが、連携は抜群なのである。同じ戦闘改人だから、なのだろうか。


「君はさっさとを絶て。……あまり年寄りを煩わせるものではないぞ」

「……そうだな。俺が殺すより先に、死なれても癪だ」

「安心せい、君如きに私は殺せんよ」


 盾を突き刺されても、なお立ち上がって来る上位種は、激しい怒号を上げて猛り狂っていた。だが、その殺気を真っ向から浴びても、2人の戦闘改人は全く動じていない。

 ロイドハイザー将軍は盾を叢鮫さんに投げ返すと、上位種の相手を引き受けるべく漆黒の鉄拳を構える。


「貴様も腹が減っておろう、好きなだけ喰らうが良い――VIRUヴァイラ-STRASHストラッシュ


 彼が上位種の大顎に手刀を突き刺し――自身の体内に仕込まれた毒ガスを、敵の内側へと流し込んだのは、その直後であった。

 一切の躊躇もなく、繰り出されたその技こそ――かつて彼が「GENERALジェネラル-VIRUSヴァイラス」と呼ばれ、恐れられていた所以である。


 そんな彼の背を一瞥した後――叢鮫さんは、輝矢君達の方へと合流して行った。


「待たせたな火弾、結城ッ!」

「おう……行くぜ、ロブッ!」

『ポピパポ!』

「皆……これで『決着』を付けるぞッ!」


 そして。ヒーロー達が鋼鉄食屍鬼達を圧倒し、2人の助っ人が上位種達を迎え撃つ中で。

 輝矢君、叢鮫さん、火弾さんは再び――決して諦めない闘志の群れグリット・スクワッドとなって、巨大な魔人に立ち向かっていく。


「……なぜなんだ、テルスレイド。なぜお前は、お前達は、そんなにもッ……!」


 そんな弟達の勇姿に、皇帝陛下は苦悶の表情を浮かべ――目を伏せていた。その紅い瞳には、「躊躇い」の色が深く滲んでいる。


 一方、輝矢君達の勇気を嘲笑うかの如く、魔人は大顎と角から放つあの熱線を、薙ぎ払うように放射するが――3人は避けることもなく、進撃を続けていた。


 輝矢君は鉄球の回転で、叢鮫さんは盾で、火弾さんは両腕で。

 どんなダメージも厭わず、攻めの一点に全てを注ぎ込む彼らは――瞬く間に間合いを詰め、「必殺の一撃」へと移行する。

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