後編 END STORY

CHAPTER 13


 8m級の巨体を誇る、龍頭の魔人。その黒い影に迫る3人のヒーローを――突如現れた「側近」が阻んでいた。鬼達を生み出していた魔人の影から、不意を突くように飛び出してきた「亜種」を前に、3人は咄嗟に足を止め身構える。


「……ッ!?」

「こいつらは……!」


 無数に湧いている鋼鉄食屍鬼達とは違う、たった2体の鬼。だが、今までの悪鬼とは桁違いの気迫と――赤金色の甲冑を纏っている。

 どうやら、鋼鉄食屍鬼達の上位種であるらしい。3mもの巨躯と額から伸びる1本の角が、これまでの「雑魚」との違いを見せつけているかのようだ。


「魔人直属の近衛兵……ってとこか。全く、次から次へと……!」

「奴を倒さない限り、眷属達は無限に沸いて来る! 皆が数で押し切られる前に、俺達で奴を仕留めるぞ!」

「無論だ。……そのためにもまず、最後の邪魔者を片付けなくてはな」


 だが、そんな連中に時間を割いてはいられない。すでに倒しても倒してもキリがないくらい、大量の鬼達が溢れかえっているのに――これ以上増えられたら、さしものヒーロー達も物量で押し潰されてしまう。

 発生源である魔人を倒し、鬼達の増殖を止めないと、勝ち目はない。輝矢君達は魔人のところへ向かうべく、2体の上位種に狙いを定めた。


「――残念。その獲物なら、あたし達が頂くわ」


「なッ――!?」


 すると。聞き覚えのある声に、私がハッと顔を上げた瞬間――3人の両脇から、新たに二つの「門」が出現する。

 きっと目を覚ましたジークロルフさんが再び、転移魔法を使ったのだろう。しかも、この声……私は、この声を知っている。


竜吾りゅうご、ロブ! ……花奈はなッ! あたし達も、助太刀させて貰うからねッ!」


 そんな私が、想像した通りに。艶やかな黒のロングヘアを靡かせて――元の世界から来た私の親友・・が、「門」から飛び出して来た。


紗香さやかっ!?」

「……ごめんね、花奈。こんな大事な時に、今まで側にいなくて。でも、もう大丈夫だから!」


 Jカップという抜群のプロポーションを、白い空手着に隠している彼女の名は――篁紗香たかむらさやか。地球で暮らしていた頃、大罪人の娘だった私にも屈託なく接してくれていた、数少ない友人だ。


「あんた達、よくも花奈に酷いことしてくれたわね……異世界だか何だか知らないけど、誰が許したってあたしが絶対許さないッ!」


 彼女は豊かな胸を揺らして、近くに迫っていた鋼鉄食屍鬼の首に、鮮やかなハイキックを決めながら――私と火弾さんの方を、交互に見遣っている。どうやら、火弾さんとも知り合いになっていたらしい。


「きゃあっ!? ――このぉッ!」


 しかし、空手3段の手練れとはいえ紗香は生身の人間。さすがに一方的とは行かず、反撃の爪に空手着を裂かれ――たわわに揺れる胸を覆う、赤いブラジャーを露わにされてしまった。

 それでも彼女は一瞬で恥じらいを捨て、その感情を怒りに変える。怒号と共に放たれた回転蹴りが、悪鬼の下卑た笑みを叩き潰していた。


「……さぁ行くわよ、06レム! あんたの力も見せてやりなさいッ!」

『グオゴゴガァァッ!』


 そんな紗香の背後では――彼女と一緒に「門」を潜って来た鈍色の鉄人が、その全身に仕込んだ銃器全てを一斉に放っている。


FULLBULLETフルバレット-CRUSHクラッシュッ!」

『グゥオオォオォッ!』


 紗香の音声入力パスコードに応じて――鉄人の胸に搭載されている回転式機関砲ガトリングの猛火が、火弾さんに迫る上位種を吹っ飛ばしていた。赤金色の甲冑が、瞬く間に蜂の巣になって行く。


『ピポポー!?』

「さ、紗香! なんでお前まで……って言うか、なんで『破壊の狩人デヴァステイカー』まで居るんだよ!?」

「いっぺんに訊かないで! ――あたしは刑事の娘だし、この子は元々警察用の機甲電人オートボーグだったのよ? だったらあたしがマスターを引き継いで当然でしょ、男除けにもうってつけだしね!」

「……ムチャクチャにも程があるぜ。しかも、ABG-06だから『レム』ってか。おいロブ、いつの間にかデカいお仲間が出来ちまったなぁ」

『ピポー!』


 その光景に火弾さんは閉口しているようだったが、彼のスーツにいるAIはむしろ大喜びで歓迎しているようだった。紗香に何があったのかは、まだよく分からないけど……彼女が力になってくれて、本当に心強い。


『ガゴォォオッ!』

「竜吾、ロブ! こいつはあたし達が引き受けるから、あんた達はあのデカブツをッ!」

「……全く。跳ねっ返りもここまで極まると、いっそ頼もしく見えちまうぜ。俺達も急ぐぞ、ロブ!」

『ピポパピーッ!』


 そうして、紗香と06レムという機甲電人のコンビが、上位種の1体を圧倒する中で。叢鮫さんは、もう一つの「門」から現れた漆黒の巨漢と、仮面越しに睨み合っている。


 2m以上の体躯を持つ、黒と紫紺の強化服を纏う巨漢は――白髪の老人であった。その素顔を露わにした彼は、見下したような表情で叢鮫さんを見据えている。


「……なぜ貴様が生きている、ロイドハイザー」

「私としては、君が健在であることの方が不思議でならんよ……ムラサメ大尉」

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る