第27話 初任務

「い、従姉妹ぉ!? 天龍くんとみどりちゃんが……!?」

「あ、うん。まぁね。てか話してなかったんだみどりちゃんは……」

「あったりまえでしょそんなの。面倒くさくなるの目に見えてるし」


 取り敢えず暫く状況が飲み込めずにフリーズしてた佐倉さんに、俺とみどりちゃんの関係を簡潔に説明した。佐倉さん、めちゃくちゃ驚いてるな。

 でもまぁ当然っちゃ当然だ。普通自分の友達と仕事仲間が親戚同士……なんて考えるはずもないし。


 そんな佐倉さんの反応をある程度予測していたのか、みどりちゃんは少し面倒臭そうな目で俺たちを見つめる。あーもう、この反応が面倒くさいのよ……、なんて考えてそうな、そんな顔だ。


「て、天龍くんのこと知ってたなら言ってよぉっ! 彼のこと説明しようとしてた私が馬鹿みたいじゃんっ!」

「知るかそんなのあんたの都合でしょうが……! つーかそのテンションが嫌で話さなかったって何度言えば……」

「……ごめんみどりちゃん。これに関しては君が話してなかったが故のテンションかと」

「ど、どーせこいつのことだから質は違えどこのレベルと同等クラスの態度で接してきたに決まって……って揺さぶるな吐く––––––っ!」


 でも、まぁそんなことしてたら佐倉さんが黙ってないのはまぁ目に見えてるというかなんというか。

 佐倉さんは言葉で表しきれない気持ちをぶちまけるように、みどりちゃんの肩を掴んでガシガシと揺さぶる。


 なんか驚くほど揺らしてるぞ。みどりちゃんの頭上下にブンブン揺れてんじゃねぇか。


 まぁあそこまで揺さぶられりゃ、気持ち悪くなっちゃうのもわかるけど……、これとばっかりは報告義務怠った報いとして受け止めてくれ。みどりちゃん。


「それにそれにっ、天龍くんがみどりちゃんと親戚だって分かってれば、あの時あんな真似っ……!」

「あの時って……あぁあれか。俺が初めてここ来た時か。殺されかけたやつ」

「そ、それに関しては仕方ないでしょ司兄ぃが来たこと知ったの事後なんだから……うぷっ」

「……佐倉さん。気持ちはわかるけどみどりちゃんやばそうだからその辺にしといてあげてください」


 流石にこのまま揺さぶり続けるとマジでみどりちゃんが吐く。そう感じて佐倉さんに声を軽くかけると、彼女はやりきれないというような表情をしつつも渋々従ってくれた。


 まぁ佐倉さんの気持ちも最もだ。夜霧さんから聞いた話だと、この組織に入る人間はもれなく事前に自身の親戚の職業や趣味に至るまで、身辺調査がくまなく行われるらしいから。


 多分みどりちゃんがここに来た時に、当然従兄弟である俺のことも調べられていたのだろう。詰まるところ、みどりちゃんがこの組織にいることイコール、俺はだと組織は判断していたことになる。


 故に、みどりちゃんが俺の従姉妹だと分かっていれば、少なくとも敵のスパイだと佐倉さんが勘違いすることもなかった……ということだ。


 ……まぁ、この組織の『ボス』とやらはその辺もしっかり把握した上で佐倉さんを焚きつけたんだろうな。

 チクショウなんか腹立ってきたぞ。全部掌の上ってか。許せない許せない。


「……ねぇ貴方達。ここに集まった目的、忘れてないかしら? 一応今日の任務の伝達の為に集まってもらったわけだけど……、分かってるわよね?」

「はいそりゃもちろん」


 ……そうそうそれに、今日この場に集まった理由を忘れちゃいけない。夜霧さんの若干怒ったような声を聞いて、即座に意識をそちら側へと向ける。


 いや、だってこの人怒ると結構結構怖えもん。以前ミソラさん達との一件で絞られた時にそれは嫌というほど感じたというかなんというか。


 始終笑顔で罵倒され続けるんだもの。かなり精神的に来るわあれ。

 それにミソラさんと津浦さんに至っては軽く一発拳骨食らってたし。文句言いたげにしてたけど視線で黙らされてたな。ほんと何者なんだこの人。


 なんて考えてるうちに、気づけば佐倉さんやみどりちゃんも夜霧さんの方に視線を向けている。やっぱり、あんまり怒らせたくはないみたいだな。


 そこから先は、夜霧さんから任務の内容を詳しく聞いて、簡単に質問をした後、現地へと向かう。

 そういえば、夜霧さんの説明を聞いている時、ちらっと2人の顔を伺ってみたけれど。


 2人とも緊張した様子なくなんてことないかの様に話を聞いていて、やっぱりこの組織の「諜報員」なんだな、なんて思わされた。

 まぁ、特に関係のない話だけどさ。


 組織御用達の車に乗せられて1時間ほど。「着いたわよ」という夜霧さんの声を聞いて車から降りる。ちなみにここに来るまで運転してたのは夜霧さん。めちゃくちゃ運転上手かったな。


 俺たちの目の前には、ちょっと大きめのビルがそびえ立っている。ここには誰もが知るIT企業の本社が入っている、らしい。


「で、今日の任務って確か……」

「この会社の社長令嬢の護衛、ですね。晩餐会があるからその警護をしてほしい……でしたっけ?」

「晩餐会とかリア充どもの巣窟じゃない……。これ私たちの仕事なの? お雇いのボディーガード共にに任せなさいっての」


 まぁ確かに、俺たちは犯罪未然防止組織。国に関わる要人達の警護とかならまだしも、令嬢の晩餐会の護衛……、となると、いささか趣旨が逸れているんじゃないか、と思うのも確かだ。けど、


「確かそこら辺は社長自ら話をする……んですよね。夜霧さん?」

「ええ、そうね。さぁ、早く行きましょう。時間が惜しいわ」


 俺の投げかけに簡単に答えると、サッサとビルの中へと入って行ってしまう。多分、仕事となると本当に淡白になるんだろうな。夜霧さんって。


「……でもま、言われてみりゃそうだな。行こう。2人とも」

「ん、やる気十分ですね。天龍くん。ええ、行きましょう」

「あーめんど……。でもやらなきゃ。うぅ」


 それぞれ、三者三様の言葉を口にして。

 俺たちも後に続いて、大きなビルの入り口へと向かった。

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殺されかけて入ったのは、秘密結社でした。 二郎マコト @ziromakoto

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