第17話彼と悪魔

頭がくらくらしてきた。

久方ぶりに、日頃使わない頭を使ったからだろう。

気持ちが悪い、

気分が悪い。


「あれれー、別れ話ですかー?」


ロリッ子な喋り方。

だが声の主は私と同じ顔、似たようなスタイル。

二本の黒い触覚をアホ毛のようにぴこぴこさせながら飛んできた。


「もしかして私、お邪魔虫さんですか?」


あわわわー、とぶりっ子。

基本、私はこの手のキャラクターが大嫌いだが、彼の前ではよくしているので、なんとも言えない。

やはり、自分の顔でもこのキャラは嫌だな。

私の顔と私の声、

だからこそかもしれないが。


「それで、何が原因でこんなことになったんですか?」


事情を知っているだろうに、何も知らないという体で聞いてくる。

私の心を抉ってくる、

流石は小悪魔スタイルな私だ。

私もこいつみたいなコスプレをしていれば、性的魅力で捨てられることもなかったのかもしれないな。


「よくわからない。とりあえず、彼は仕事が大変過ぎて、肉体的にも精神的にも病んでしまった、そんなところさ」


「なるほど、よくある理由ですね。現代的です」


小悪魔スタイルが出ている間は、なぜか時間が止まる。

だから、こうやって会話も可能だ。

こんな存在がいるなら、愛の力も現実に干渉してくれればいいのに。


「けれど、本当でしょうか?」


小悪魔スタイルは悪戯っぽく笑う。

口元を歪ませ、

目を輝かせて。


「普通に、あなたに飽きただけなのでは?」


私が目を背けていた事実を、言葉にした。


「だってそうじゃないですか、今までもこの人が仕事が大変な時はたくさんありました。けれど、その時は愛情パワーでなんとかしてきたじゃないですか」


続ける。

黙る私を置いてきぼりに、

過去の事実を。


「それは言葉であったり、性的な接触であったり、まあ色々ですけど。でもきっと、彼はその行為に飽きてしまったんですね。あなたとの、ですが。やり過ぎた、供給過剰、というやつですよ、きっと」


私の図星を貫く。

だが、やまない。

言葉は続く。


「それに、彼は仕事はあんまりできないとは言え、顔はそれなりに整っているし、頭もいい。料理含め、家事スキルは高いし、人当たりもいい。暴力も振るわないし、悪口も言わない。とってもステキな人。でも、そんな彼に比べてあなたはーー」


やめて、

言わないで、

それ以上は、

お願いだから。


「料理は下手だし、嫌いだし、他の家事も苦手。他人の悪口は平気で言うし、変にプライドも高い。そのくせ、頭悪い。普通にネット広告の儲け話に引っかかりそうになるし」


ごめんなさい、

ごめんなさい。


「それに財布の紐も緩い。前、この人にお金借りてたよね?そのお金で誕生日プレゼント買ってたし。あれはひかれてましたね、うんうん」


もう、やめて。

聞きたくない。


私が駄目なのは、

私に価値がないのは、

私自身が一番分かってるから。


「だと、きっと彼も限界だったのでしょう。あなたを養うーー正しくは『飼う』ですか、余裕がなければ、野生に返すしかない」


私の顔で、

私の声で、

これ以上言わないで。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る