第16話彼と私

どうしてこうなったんだろう?

私のどこが悪かったんだろう?


「だから、僕とはもう別れてくれ」


冷たい部屋。

静かな部屋。

楽しかったはずの彼との時間、

だけれど、それが今は地獄にいるような感覚。


「僕はもう限界だから、巻き込みたくない」


彼はそう呟くように言う。

私の顔は見ないで、

うつむき、

自身を責める。


「私なら大丈夫だよ!仕事がなくても、病気でも、二人ならきっとなんとかなるって」


私はない語彙を絞りだして言葉を贈る。

けれど、バカな私の言葉は彼に響かない。

どころか、届いてもいないのかもしれない。


「無理だよ。色々考えた末の決断だ、わかってくれ」


「なんで、どうして、そんな説明じゃわかんないよ!」


「僕にも分からないよ。これからどうすればいいかも、まだ君のことが好きかどうかも」


え、どういう意味?

その言葉を喉元で堪える。


「もう何も分からない。とりあえず、一人になりたい。誰かといると心がざわついて仕方がない」


「私と一緒にいると落ち着くって言ったじゃん!」


「あの時はそうだった。けど、今違う」


「じゃあ、待つよ!回復するまで、元気になるまで待つよ!」


「それじゃあ君に悪い。待った結果、僕がどうにもならなかったらどうする?二人揃って共倒れだ。君は元気だし明るい、一人でもきっとなんとかなる」


そう彼は謝る。

私を切り離すために、

一人になるために。


私にできることはないのだろうか?

私が彼に役立てることはないのだろうか?


この好きという思いは、

この愛してるという気持ちは、

彼を救うことはできないのだろうか?


少女漫画のように、

少年漫画のように。

愛の力で、奇跡が起こってどうこうならないのだろうか?


例えば、宝くじをラブパワーで当てて、今の金銭的悩みを解決してあげるとか。

例えば、肉体的にラブパワーを彼に注ぎ込んで、悩みなんてどうでもよくなるくらい気持ち良くさせてあげるとか。


うん、やはり私は頭が悪い。


「ごめん、これ以上君に迷惑をかけたくない」


彼は謝る。

私が考えている間にも、謝罪の言葉を続ける。

付き合って来た長い時間、

その間にたくさんの、

好きだ、

愛してる、

ずっと一緒にいたい、

そんな言葉をもらった。


それを帳消しにする言葉を、この短期間にたくさんもらっている。

あぁ、つらいな。


「だから、別れてくれ」


君のために、と彼は言葉をつなげる。


だから、違うのに。

あなたがいない人生、もう考えられないくらい、私はあなたが好きなのに。

私のためを思うなら、あなたがいる地獄に一緒にいさせてくれればいいのに。

それくらい、許してくれればいいのに。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る