第14話上司と悪魔

「よし、やっちまえ」


耳元で囁く声。

耳馴染みのある、『あいつ』の声だ。


「ほら、やれ。こんだけ舐め腐ったことを言ってるやつには、拳でお灸を据えてやらないとな。勧善懲悪、というやつだ」


悪魔じみた姿をしているお前が言うか、と内心で笑った。

ぱたぱたと小さ翼をはためかせて、課長の頭の上に止まった。

この謎の生き物は、俺にしか見えない。

とりあえず、よくわからないので悪魔と仮定して接しているが。


声も俺にしか届かないし、

物理接触も感知されないらしい。

そもそも、こいつが登場すると時間が止まるのだ。

最強のスタンド能力ーーといいたいところだが、こいつは俺の意思で操れない。


勝手に現れて、勝手に消える。

それも、こいつのタイミングで。

なんとも憎たらしい奴である。

幾度となく、こいつの能力を我が物にしようと奮闘したが、無理だった。

出現条件を割り出すのがせいぜいで、コントロールは夢のまた夢。

時の魔術師にはなれないらしい。


「さあ、その握りしめた拳を振り抜け。大丈夫、一発殴るくらいどうということはない。こいつはさっき二度、机に対して拳を振り下ろしている」


無機物をカウントしちゃいけないだろ。


「スチール机にだって魂はあるさ。ただ、無口だから何も言わないだけさ。お前だって、口を削ぎおとすか、全身麻酔かけたらこの机くんと状況は変わらないぜ」


まあ、極論だけどそうだわな。


「ほらほら、雑談はいいから、一発いこうぜ!いや、一発打つのも二発打つのも取られる首は一つだけ、って言うからもう百八くらいやろうぜ!」


なんで煩悩の数まで殴るんだよ。

まあ、それだけ殴れば過去の恨みつらみも消えるかもしれないな。


「生まれた時代が違うんだ、この世は信じる神さまが違うだけで殺しあうんだぜ?そもそも分かり合えるはずがない。言葉が通じるはずもない。だけどさ」


悪魔は続ける。


「お前の拳は万国共通だ。振り抜けば、痛みという感覚を伴って、お前の思いが伝わる」


確かに、そうだろう。

この拳の一発で伝わるだろう。


『この油ジジイ、偉そうに講釈たれてんじゃねぇぞ、ぶち殺されてぇか!』


という言葉が、

この一撃で。

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