第13話上司と俺

脂汗にまみれた、牛蛙の如き俺の上司。

焦りと不快感を隠そうともせず、苦言を吐く。

当然、その対象は俺である。


周囲の目も気にせず、

無駄に大声で、

自身の権勢を誇るように、

自身の立場を知らしめるように。


「あのな、ちゃんと話聞いとるんか?」


ああ、聞いてるよ。

いらいらしているが、ちゃんと聞いている。


「お前は自分の意見を好き放題言うだけで、相手の立場を考えてない」


あんたは、俺の立場は考えてるのか?

周りの人は視界に入っているのか?

それでその言葉を吐けるとは、大した課長様だ。


「俺が若い頃は、そういうとこきちんとしてたぞ!だが、最近のやつはそこら辺がなってない。口だけ達者で、できもしないことをペラペラとっ!」


どしん、と乱暴に机を叩く。

これでこちらが萎縮すると思っているのだろうか。

そうだとしたら笑ってしまう。


確かに、俺はあんたらの若い時代とは違う。

給料も少ないし、

バブルも経験していない、

番長制度もなかったし、

体罰も許されなくなってきた、

深夜番組にポロリはなかったし、

タバコも電車で吸えない。


周りを気にしろ、

周りに合わせろ。


平等にしろ、

公平にしろ。

50m走でお手手繋いで全員ゴール、

桃太郎が園児全員の桃太郎。


そんな時代に生きてきた。

それは感覚が違うに決まっている。

だって取り巻く世界が違うのだから。


「おい、ちゃんと聞いてるのか?」


どすん、とまた机を叩く。

周囲の人の注目が、視線が集中するのを感じる。


ああ、今か。

今やるべきなのかもしれない。

右拳に力を込める。

ぎゅっと、

握りしめる。


俺と課長は違う。

考え方も、

経験も、

当然、身体能力も。


若いということは、十二分にステータスとして成立する。

ある偉人は老いることを恐れ、

訳の分からない与太話に騙されたという。

それだけの価値があるのだ。


「おい、なんとか言ってみろよ!あん?」


ばしん、と立ち上がり凄まれる。

顔を近づけられ、威圧される。

汗、

しみ、

その他肌荒れ全般、

疑惑の頭皮。

こんな中年にはなりたくないものだ。


だけど、きっとなってしまうのだろう。

古代ローマの石碑にさえ『近頃の若いものはーー』という文面があったらしいし、日本の経済界の豪傑、渋沢栄一でさえ『最近の若いものは口だけ達者』と言っていた。


歴史は繰り返す。

だかれど、この拳を繰り出すことができれば、

あるいはーー

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