第42話  価値の無い命

 作戦終了後、リーパーと少女はコリブリのヴェノムにより、スターストライプス島を脱出し、ユニオンベースへと帰還した。

 「総員、敬礼!」

 ヴェノムから降りると、リーパーの部下たちが敬礼をして2人を出迎えた。

「隊長、その娘は?」

 マカロン少尉がリーパーに少女の事を聞く。

「捕虜だ。」

「いや、その娘って、、、もしかして、、、。」

「あぁ、プレデターの部隊を壊滅まで追い込んだクソガキ、、、の出来損ないだ。」

「あの、、、攻撃してきたりとかは、、、」

「しない。してきたら俺がとっくに殺している。」

 少女を見て驚いていたマカロン少尉だったが、リーパーが安全を保障すると、ほっとした様子でいた。

「俺の部隊だ。お前に危害は加えない。」

「、、、。」

 リーパーがそう少女に伝えるも、少女は口を開かなかった。

「これからその娘をどうするんですか?」

 ロメオ少尉がリーパーに聞く。

「尋問、、、したところで何も情報は持って無いだろうから俺の管轄で保護する。」

「ほぉ、、、珍しい事もあるんだな。そいつ強いんだろ?じゃあ俺にくれよ。戦いてぇ!」

 少し遅れてプライスが現れた。

「我々は敵意の無い者を殺さない。」

「あーぁ、せっかく暇つぶしになると思ったんだがな。」

 プライスは顔を手で覆いながらも、指の隙間から少女を睨み付ける。

「だったら中国にでも行ってきたらどうだ?」

「あぁ、俺は北京に出発する予定だ。殺したりねぇ。そんな連中を引き連れて北京に行くさ。」

「そうか。気を付けてな。」

「あぁ、そっちこそ気を付けろよ?」

 そう言ってプライスはどこかへ行ってしまった。

「医療処置を受けさせないとな。行くぞ。お前達は解散だ。」

 リーパーは部下に解散命令を告げてから少女と共に、ユニオン・ベースの医療プラットフォームに向かった。


「身体に異常はありません。ですが、、、。」

 リーパーは少女の状況を医療スタッフに説明を受けていた。

「何か問題があったのか?」

「はい。どうやら彼女は通常の人間の数倍の治癒能力を保有しています。しかも、彼女は痛みを感じると自動的に脳内麻酔が痛みを緩和していく能力があります。」

 どうやら『翼の無い天使達』は痛覚をあまり感じなく、なおかつ、高い治癒能力を保持していた。

 医療スタッフとリーパーが話をしていると、少女が新しい服を着てリーパーの所へやって来た。

「そういえば、彼女の名前は何て言うんですか?」

「そうだったな。おい、名前を言え。」

 リーパーは少女に名前を聞いた。

「名前?コードならXN234。」

「それがコードか?」

「私は失敗作だもの。コードの最初に失敗作を表すXが付くの。」

「そうか。名前は無いんだな、、、。」

 すると、リーパーは少女の肩を掴んだ。

「コードで呼ぶのはいちいち面倒だ。これからは、、、レイ。レイと呼ぶ。」

「、、、レイ。レイね。」

「気に入らないか?」

 リーパーは頭の後ろをかく。しかし、少女――レイはインターフェースをしているリーパーの顔を見た。


「そんな事無いわ。だって、あなたが付けてくれた名前だもの、、、。」



 リーパーとレイは食堂に行き、リーパーはステーキを、レイはパンを食べていた。

「それで、お前は今後何を望む?一般人として生活することも出来るぞ。」

「私はあなたの部隊に入るわ。」

「本気か?イかれてやがる。」

「私は一般人として生活していくのは困難だわ。」

「あぁ、教育を受けてこなかったからか。だったら、偽造して、、。」

「勉強は何とかなるわ。でも、他人との関係を構築していく事は今からじゃ遅いから、、、。」

「そうか。ところでお前はいま何歳だ?」

「16歳よ。」

「そうか。俺も16だ。」

「そうだったの。もっと上だと思ったわ。」

「よく言われる。話を戻す。でも、まだ間に合うんじゃないか?」

「他人が、人が良く分からない。人は何故笑い、何故泣くのかが。そして、他人との関係の作り方を知らないもの。」

「だから、戦場に生きていた方が良い、、、か。」

 リーパーはナプキンで口の周りを拭いてから、水を飲み干す。

「だが、我々の計画通りにいけば戦争は無くなる。そうすればお前の居場所など無くなるぞ?」

「そうなったら、あなたが助けてくれるでしょ?」

「なぜ俺が助けることになっている?」

「それより、あなたもどうするの。戦争がこの世から消えたら。」

 レイはリーパーに突き刺さる質問をした。

 喋ることが上手いリーパーでも、この質問はリーパーを悩ませた。

「俺は、、、戦争が無くなったら、、、」

「あなたも考えていないのね。分かっていたわ。」

 リーパーは腕を組む。

「俺は恐らくこの戦争で死ぬ。どんな形であれ、必ずな。でも、俺はそれで良い。俺にとっては死こそが報いだ。決して俺の中の地獄や過去からの束縛からは逃げられない。」

「でも、私はあなたを必要とするわ。」

 レイはリーパーを無表情のままじっと見つめる。

「問題無い。俺がこの世を去っても、俺の代わりや俺より優秀な人間は山ほどいる。」

 そう言ってリーパーは椅子から立ち上がり、食堂を後にした。



 同時刻、ストライク・ブラック直属組織、ハーケンクロイツブント潜水旗艦――ヨーゼフ・ゲッペルス

「少佐、船内の鎮圧を完了しました。」

 海上に浮上しているUボートの甲板には、両手を上げて降伏している旧ドイツ国防軍の軍服を着た兵士達と、ドイツ軍の旧式のサブマシンガン――MP40の近代改修された物を持った旧ドイツ国防軍の軍服を着た兵士達がいた。

「我々は戦争を強く望む。平和?そんな物では民族などでは無く、人類自体が腐ってしまう!資本主義だろうと、共産主義だろうと、自由主義だろうと、ファシストだろうと、戦争をする理由なんかどうでも良い。戦争によって優秀な人間だけが生き残れば良いのだ。混沌こそが人間を強くしていき、人間を進化させるのだ!」

 SSの隊服を着た男が拘束されている彼らに対して演説をした。

 その演説は力強くも凶器を感じるものだった。

「そんな思想をアドルフ・ヒトラー総統閣下は望まない!この裏切り者め!」

 拘束されている兵士が演説をしている男に叫ぶ。

「私はあの男に1回も同情した事は無いし、私はあの男が嫌いだ。祖国?思想?知るか。最後に生き残ったヤツだけが正義であり強者なのだ。全員構え!」

 男の合図により、兵士達は銃を構える。

「ハイル・ヒトラー!」

 銃を突き付けられた兵士達は最後を悟り、一斉にローマ式敬礼をし、彼らの総統であるアドルフ・ヒトラーを称えた。

「じゃあ、天国の伍長閣下によろしくな。撃て。」

 海の水平線に沈む夕焼け空に銃声が響き、硝煙が漂った。

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