18


「どないしたん? 迷い子なん?」


 これには首をふっておく。

 いちおう、まよってはいない。まだ、帰り道はわかる。


「ぼく、あそこの小学校の子やね?」


 かおるは、うなずいた。

 なんでオバケと話すことになんか、なってしまったんだろう。


「ほんまに迷い子と、ちゃうん?」


 女ゆうれいは話しながら、手招きして、バスの待合所のイスにすわった。

 かおるは、おとなしく、となりにすわった。女ゆうれいはハンドバッグから、キャンディーをだした。


「アメちゃん、食べよし。ぼく、何年生?」

「一年……」

「ほな、理科は何先生に習っとるん?」

「たんにんの花見山先生」

「そう……」


 女ゆうれいは、ガッカリしたみたいだ。

 ゆうれいのはずなのに、ふつうに話せるし、アメちゃんをくれて、やさしい。よく見ると、ぜんぜん、オバケっぽくない。


「あのぉ……オバケじゃないの?」

「あら、だれが?」

「おねえさん」

「わたし? わたしが、なんでオバケなん?」

「だって、この前、学校で……」


 おねえさんは考えこんだ。


「もしかして、この前、おねえさんが学校に入ったこと知っとるんやね?」

「う、うん……みんなと、きもだめししてて」


 かおるは事情を話した。

 おねえさんは、だまって聞いていた。


「ふうん。学校の七ふしぎか。うちらのころは、そんなんなかったなあ」

「だから、おねえさんのこと、オバケだと思ったんだよ。トイレの京子さんじゃないの?」


 おねえさんは悲しそうな目をした。


「京子ちゃんのこと、そないな話になっとるんやね。トイレで血、はいたそうやから」

「どういうこと?」

「京子ちゃんは、うちの姪なんよ。六年前に亡くなったんや」


 六年前というと、かおるが赤ちゃんのころ。想像がつかない。


「病気で死んだんでしょ?」


「自動車事故なんよ。それが、ほんのちょっと、こつんとあたっただけやったみたい。ころんで頭打って。でも、どこにもケガしてへんかったから、そのまま学校、行ったんやね。そしたら、急に気分、悪うなって……病院に運ばれたときには、もうダメやった」


 かおるは車に気をつけようと心から思った。

 オバケもコワイけど、自動車もコワイ。というか、京子さんの話は本当だった。それも、こわい。


「学校で、たおれたから、オバケのお話になったのかな」

「そうやろね。うちは、お姉さんと年が離れとるから、京子ちゃんと年が近かった。ほんまの妹みたいに仲よしやった。あんなことになって悲しかった」


 お姉さんが、とても悲しそうなので、かおるは、こまった。なんと言って話しかけたらいいんだろう。


 モジモジしてると、お姉さんは笑った。


「ごめん。ごめん。ぼくに気ぃつかわせてしもたね」

「じゃあ、この前は、京子ちゃんのオバケに会いにいったの?」

「オバケなんて、いいひんよ」と、お姉さんは、いつも大人が子どもに対して言うことを言った。


 まあ、たしかに、お姉さんはオバケじゃなかった。お姉さんをオバケだと思って、おもらししちゃったなんて、とても言えない。


「じゃあ、なんで、学校のなか、歩いてたの?」

「それは……」


 お姉さんが何か言いかけたときだ。

 ちょうど、バスが来た。


「あ、うち、あれに乗らな。ほなね。ぼく」


 お姉さんはバスに乗って行ってしまった。




 *


 バス停に残された、かおるは、しかたなく、うちに帰ることにした。ずっとバス停にすわってるわけにはいかない。


 とぼとぼ歩いていると、ちょっと、つかれた。さっきから歩きっぱなしだ。かおるは、とちゅうの公園でブランコにすわった。


 そのときだ。

 また、あの人だ。

 電信柱のかげから、ボウシを深くかぶった男が、こっちを見ている。


 かおるはビックリして立ちあがった。急いで、家に向かって走りだす。

 ふりかえると、やっぱりだ。

 男が、ついてくる。


(どうしよう。今度こそ、ゆうかいされちゃう)


 もちろん、かおるは、いっしょうけんめい走った。


 だけど、そこは子どもと大人だ。みるみる追いつかれる。


(どうしよう。どうしよう。助けて。たけるにいちゃん!)


 あたりに人通りがなくなった。

 家はならんでる。が、まどが全部、とじてる。


 男はもう、すぐうしろだ。

 男の手が伸びてきて、口をおさえられた。


 それで、いったい、どうなったんだろう。


 かおるは、くらっとなって、気を失ってしまった。

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