17

 *


 次の日。

 たけるは、また一人で出ていった。

 かおるは兄が、かくしごとをしてる気配を感じていた。なので、こっそりと、たけるのあとをつけていった。


 といっても、たけるは自転車だ。

 すぐに追いつけなくなってしまった。


 でも、今日のかおるは一味ちがう。

 この前の夢のなかで、たけるはオバケ屋敷の近所のおばあさんと話してると言っていた。きっと、前に会った、あのおばあさんだ。今日も、あそこに行ってるのに違いない。


 そう考えて、かおるはオバケ屋敷へ向かった。


 ところが、かおるがついたときには、たけるの自転車は見あたらなかった。

 かおるがキョロキョロしてると、ちょうど、おばあさんが出てきた。おばあさんは、かおるのことをおぼえていた。


「おやおや。この前、おにいちゃんと来てはった子やねえ」

「ぼくのにいちゃん、来てない?」

「さっき、帰っていかはったえ」


 早い! もう帰ったあとだった。

 かおるも自転車がほしいと、せつじつに思う。


 ぺこりと頭をさげて、かおるは歩きだす。

 すると、おばあさんが呼びとめた。


「おにいちゃん、熱心どすなあ。さっきも、あの家庭教師のこと聞いていかはったけど。えらい血相かえてはりましたなあ」


 やっぱり、おばあさんの京ことばは、わかりにくい。かおるが首をかしげていると、おばあさんは続ける。


「やっと思いだしましてなあ。岡野さん、学校の先生と結婚しはりましたんや。そのこと言うたら、急に帰る言わはりましたえ」


 学校の先生……それでなんで、あわてたのか、まったくわからない。


「おばあさん。ありがとう」


 かおるは、ぺこりと、おじぎして、おばあさんと別れる。うちに帰ることにした。おばあさんと話してたこと、今度こそ、たけるに指摘してやるのだ。


 だが、路地を歩いてたとき、かおるをビックリさせることが起こった。

 すれちがった女の人が、ゆうれいだった。


(な、なんで……? オバケが昼間、こんなとこ歩いてるの?)


 何度、見ても、まちがいない。

 あのオバケだ。夜の学校。理科室をのぞいた女のゆうれい。職員室に入っていった、あのオバケだ。昼に見るから、ふつうの人みたいに見えるけど、顔は、あのユウレイそのもの。


 かおるは、すくんで見つめていた。

 女ゆうれいは、路地のおくへ入っていった。

 かおるが、ふりかえると、まっすぐ、オバケ屋敷へ歩いていく。


 いったい、どうなるんだろう。

 もしかして、あの女ゆうれいも、オバケ屋敷のオバケなんだろうか。この前は、なんで学校にいたのか、ナゾだけど。

 きっと、オバケだから、すうっとカベを通りぬけて、家のなかに入っていくに違いない。


 かおるはドキドキ(少しワクワク)しながら待っていた。


 ところがだ。

 女ゆうれいはカベを通りぬけなかった。それどころか、まったくオバケらしからぬ行動をした。

 げんかん前に立った女ゆうれいは、チャイムをならしたのだ。ピンポーンと、ありきたりの音が、まのぬけた感じで、ひびきわたる。


 オバケがチャイム……なんだか、がっかり。


 女ゆうれいは何度もチャイムをならした。とはいえ、中から誰かが出てくるはずはない。そこは、とっくに空き家なんだから。


 しばらくして、女ゆうれいは、あきらめた。くるっと、あともどりして、こっちに歩いてくる。


 立ちつくす、かおるの前を素通りしていった。そのまま、車道に出て、オバケは歩いていく。学校の方角だ。


 かおるは決心した。

 女ゆうれいのあとをついていく。ふつうの人に見えるせいか、今日は、こわくない。


 てこてこ、ついてくと、思ったとおりだ。

 女ゆうれいは、小学校にやってきた。きっと、ふだんは学校に住みついてる、ゆうれいなのだ。さっきはオバケの仲間をたずねていったのかもしれない。


 女ゆうれいは、学校の門の前で立ちどまった。

 なかをうかがってる。

 今日はプールも解放されてないし、活動してるクラブもない。だから、門は、しまったままだ。


 かおるは電柱のかげから、女ゆうれいを見ていた。

 今度こそ、すうっと門をぬけてくのだろうか?

 でも、なんか、ようすが変だ。

 女ゆうれいは、ため息をついた。

 そして、あきらめたように、また歩きだす。


 かおるも、ついてく。とことことこ。


 学校のオバケが学校をはなれて、どこへ行くんだろうか。


 女ゆうれいが次に来たのは、バス停だ。


(あれ? バスに乗るんじゃないよね? ぼく、おこづかい持ってきてないよ)


 なんと、女ゆうれいはバスの時刻表を見始めた。

 これは、こまった。バスに乗る気なのだ。


 かおるは、あきらめがつかなくて、まわりをウロウロしていた。すると、オバケがこっちを見た。


「ぼく、バスに乗りたいん?」


 あうッ! オバケに声をかけられてしまった。とりつかれたら、どうしよう。


「え、ええと……」

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