15

 *


 かおるが気がつくと、次の日になっていた。朝だ。


「かおる。おはよう。タマゴ焼きができとるぞ。今日のは、ちゃんと形がくずれとらんぞ」


 じいちゃんに起こされて、かおるはモグモグ、朝ごはん。お母さんの味とは違うけど、いっしょうけんめい作ってくれる、じいちゃんが好き。


「じゃあ、かーくん。にいちゃんが見てやるから、朝の涼しいうちに、夏休みの宿題な」

「うん」


 いつもどおりの夏休みの一日。

 きもだめしのせいで、へんな夢をいっぱい見た気がする。いっそ、きもだめしそのものが夢だったみたいな。


 でも、夢じゃなかったらしい。

 ごはんのあと、たけるに勉強を教えてもらっていた。そのとき、電話がかかってきた。じいちゃんが出て、なにやら血相かえて話してる。


 電話のあと、じいちゃんは言った。


「かおる。たける。たいへんだぞ。とおるくんが昨日から、うちに帰ってないそうだ」

「えっ! とおるくんが?」


 とおるくんが、うちに帰ってない。

 もちろん、家出なんかじゃない。とおるくんは、パパとママと、ママの作るごはんが大好きだ。

 もしかして、昨日の、きもだめしのあとからだろうか?


「にいちゃん……」

「うん。みんなが、ちゃんと外に出るまで、おれが見とくんだった。あのあと、とおるくん、みんなと、はぐれたのかもしれない」


 それで、けっきょく、また、きもだめしのことが大人に知れわたった。かおるたちは学校に呼びだされて、大目玉だ。

 みんなと、その両親が集められた。

 担任の先生や校長先生、教頭先生の前で、昨日の夜のことを説明させられた。とちゅうまでは、年長のたけるが話した。


「女の人が階段をあがってきたんです。それで、かおるが腰をぬかしてしまったので、みんなに先に逃げるよう言いました。そのあと、とおるくんがどこに行ったのかは、わかりません」


 たけるは、かおるが、おもらししてしまったことを、だまってくれていた。かおるは兄への感謝の気持ちで胸がいっぱいだ。


 だけど、とおるくんのママは泣きわめく。


「きもだめしなんて、止めてくれたら、よかったのに。とおるちゃんは、まだ一年生やねんよ。何が危ないことかも、よう知れへんのよ。四年生なら、そのくらいのこと、わかったでしょ?」


 だまって、たけるは、うつむく。


 かおるは、とてもショックを受けた。

 たけるは何も悪いことしてないのに。それどころか、みんなが怖がるのを、一人で、なだめて、ひっぱっていってくれたのに。


「にいちゃんは悪くないよ。ぼくが、ついてきてって言ったんだ。にいちゃんは、きもだめしのこと、知らなかったんだよ」


 せいいっぱい弁護する。


 たけるは何も言わなかったけど、かおるを見て、かすかに笑った。かおるが泣きべそをかくのを見て、ぎゅっと手をにぎってくれる。


「じゃあ、だれが、きもだめしなんてしようって言ったん?」


 今度は、おさむくんが、うつむく。

 みんな、バツが悪い思いで、だまりこんだ。


 すると、とおるくんのパパが、とおるくんのママをなだめる。


「やめないか。みんな、まだ小さいんだ。責めてもしかたないだろ。そんなことより、とおるを探してください。みんなと外まではいっしょに出たんやね?」


 おさむくんたちは、モジモジした。


「どうやった?」

「さあ」

「先頭は、おさむくんやったけど」

「とおるくん、足、おそいし……」


 そういえば、昨日、理科室で、みんなが走りさっていくとき、「待って、待って」という声が聞こえていた。あれは、とおるくんだったように思う。


「どのへんまで、いっしょだったか、おぼえてへんかな?」


 問いかけられて、そらくんが、あっと声をだした。


「そうや。一階まではいっしょやった。職員室の前で、とおるくん、ころんだんや」


 たけるは口元で、にぎりこぶしを作ってる。それから、たずねた。


「そのとき、だれか、まわりにいなかった?」

「さあ……おれへんかったと思うけど」


 たけるが言ってたのは、もしかして、あの女ゆうれいのことだろうか?


 まさか、とおるくんは、ゆうれいに、さらわれてしまったんだろうか……。

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