二章

11


 次の日。

 たけるは四年生なので、自分の自転車を持ってる。一人で自転車に乗って出かけていった。


 かおるは、すっかり、いつもの夏休み。というか、初めての夏休み。

 じいちゃんとトランプしたり、庭木に来るセミをつかまえたり、ブッチといっしょに昼寝したり。元気になった、おさむくんと、学校のプールに行ったり。


 そんな毎日が続く。


 たけるは、あれ以来、ちょこちょこ一人で図書館に行くけど。


 今日も、たけるが行ってしまったので、みんなとプール。学校のプールは小さい。けど、友達と遊ぶのには、ちょうどいい。


「あーあ。オバケ屋敷も入れへんようなったし、つまんないな」


 ぽっちゃりなのに泳ぎのじょうずな、とおるくんが、プカプカ水に浮きながら言った。


「けっきょく、ぼくだけ、なか見れへんかったよ」

「あの穴じゃ、しかたないよ」と、たくやくんが答える。


 けど、おさむくんはバツが悪そう。

 死体だと、さわいでたのが、マネキンだったんだから、しかたない。みんなに、そのことを聞かれたくないみたいだ。


「なあなあ、じゃあ、今度は別の場所で、きもだめし、せえへん?」


 話題をかえるように、そう言いだした。

 おさむくんは、なんだって、いつも、こんなことを思いつくんだろう。


「べつの場所って?」

「学校や。学校の七ふしぎ。かーくん、知っとる?」


「理科室のガイコツのこと? 一人のときにガイコツと目があったら、ついてくるんだよね?」


「うん。それも一つ。校庭の足音やろ。音楽室のピアノやろ。よなかに誰もおれへんのに、鳴るんや。夜だけ、ふえる階段——」


 双子のたくやくんと、りょうへいくんも声をそろえる。


「トイレの京子さん」

「それって、花子さんじゃないの?」

「うちの学校は、京子さんなんや」


「なんで?」

「さあ。たしか前に、うちの生徒だったんや。トイレんなかで病気で死んだんやって」

「……急な病気だったんだね」


 とつぜん死んじゃう病気のほうが、なんだか、こわい。


「トイレんなかで血ぃ吐いて。ほんで、便器の水が真っ赤になったんやって」

「ふうん……ほかのは?」


 くわしく聞きたくない。


 今度は、そらくんが言った。


「音楽室の前の階段に、大きなカガミあるやろ。お月さまの光で、あのカガミ見たら、自分の死ぬとこが見えるんや」

「なんか、リアル」


 最後は、また、おさむくんが言う。


「プールもあるんやで」

「えっ!」

「夜中に来たら、プールから水音がするんや。ほんで見たら、子どもが一人で泳いどる。誰やろと思うて、よう見ようとすると、おれへんようになるんや。ぞおっとして逃げるやろ? ほんなら、全身、びしょぬれになった、髪の長い女の子が、目の前に立っとるんや!」

「やだぁ!」


 なんで、今、そのプールにいるのに、そういうことを言うんだろう。よけい、こわい。


「昼は、だいじょうぶだよね?」

「昼は、たまに泳いどる子の足、ひっぱるだけや。なんや、足に、からむなあ、思うて、見たら、長い髪なんやって。ほんで水んなかから、青白い顔の女の子が、こっち見とる」

「やめてぇ!」


 なんかもう、こわくて泳いでられない。

 そんな恐ろしいところだと知ってたら、来なかったのに。少なくとも、たけるのいないときは。


「ぼく、もう上がる」

「かーくん。やっぱり、こわがりやあ」


 もう、こわがりでもなんでもいい。

 かおるは女の子のオバケに足をひっぱられないように、プールサイドにあがった。そこで体育ずわりして、みんなをながめる。


「きもだめしなんか、できないよ。だって、学校は夜、門が、しまるもん」

「あれ? かーくん。知らんのか? あさって、土曜日の夜、夏祭りがあるんやで」


「夏祭り?」

「うん。地区のお祭り。校庭に屋台が出て、歌手が歌ったり、カラオケ大会あったりする。毎年、やるんや」


 もしかして、それは夜に校門があいてるという意味か……。


「お祭り……」

「そのとき、みんなで集まって、学校の七ふしぎ、まわってみいひん?」

「うう……」


 うん、ええな、ええなと、みんなは盛りあがる。

 かおるは、オバケはコリゴリだ。でも、お祭りは楽しそう。


「にいちゃんも、いっしょでいい?」


 かおるは聞いてみた。


「ええよ。かーくんのあんちゃん、カッコええなあ。うちのあんちゃんと、大違いや」


 おさむくんは、すっかり、たけるのファンらしい。


「じゃあ、あさって、七時に校門集合や」


 けっきょく、また、きもだめしに行くハメに……。

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