9


「大人に話すしかないな。おさむくんが、お父さんとお母さんに、そのことを言うんだ。それで、警察に話してもらう」


 おさむくんは、しょんぼりした。


「パパとママに、しかられへんかな?」

「しかられるかもしれないけど、ほっとくわけにはいかないよ。おさむくんが言わなくても、おれが、じいちゃんに話すよ。そしたら、警察から、おさむくんちに連絡が来る。そのほうが、よけいに、しかられる」


 おさむくんが、うなだれる。

 たけるは言った。


「じゃあ、今、おれがいっしょに、おさむくんのママに話してあげるよ。そのほうがいいだろ?」

「うん……」


 そういうわけで、かおるたちの秘密は、大人に知られてしまった。もちろん、おさむくんのパパやママは、おおさわぎだ。


 うちに帰って、たけるが、じいちゃんにも話した。


 だから、じいちゃんも、おおさわぎ……するかと思ったら、じいちゃんはさわがなかった。


「じいちゃん。今まで、だまってて、ごめん」


 頭をさげる、たけるを、じいちゃんは見つめる。


「にいちゃんは悪くないよ。ぼくが、かってにしたことだよ。にいちゃんをしからないで」


 思わず、かおるは叫んだ。


 すると、じいちゃんは、だまって、たけると、かおるの頭に、大きな手をぽんと置いた。


「さてと、それじゃ、警察に行かなきゃならんなあ。それに、おさむくんの両親とも話してみんとな」


「じいちゃん、しからないの?」

「かってに、よそのうちに入るのは、いかん。もうするんじゃないぞ」とだけ言った。


 そのあと、じいちゃんは、おさむくんのお父さんと電話で長らく話していた。


「子どもの言うことだから」とか、「いや、万一ってことも……」とか、そんな会話が、もれ聞こえた。


 電話のあと、じいちゃんは言った。


「おさむくんのお父さんが警察に連絡するそうだ。おまえたちも警官に話をきかれることになるぞ」

「はーい……」


 じいちゃんは、お父さんと違って、あんまり怒らない。ラッキー? なんとなく、ひょうしぬけ。


 でも、その夜のことだ。

 真夜中、かおるは目をさました。

 となりを見ると、たけるがいない。


「にいちゃん……? どこ?」


 トイレかな、と思うけど、なかなか帰ってこない。

 気になって、かおるは一階におりてみた。

 話し声が聞こえる。

 じいちゃんの部屋からだ。答えてるのは、たけるみたい。


(にいちゃんと、じいちゃん。なに話してるんだろ?)


 ねぼけながら、とことこ、歩いていく。声が、はっきり聞こえるようになった。


「あのこと、かおるは知ってるのか? たける」

「かおるは知らない。お父さんが死ぬ前に、おれにだけ教えてくれた」

「そうか……」


(あのこと? なんだろ)


 なんだか、わからないけど、とても大切な話をしてることは、ふんいきで、わかった。


 今度こそ、にいちゃんが叱られる——


 そう思って、かおるは、じいちゃんの部屋のフスマに手をかけた。

 ちょっとだけ、スキマがあいてる。

 そこから、中のようすが見えた。


 じいちゃんは、たけるを叱ってなかった。ぎゅっと両手で抱きしめてる。


「たける。おまえは強い子だ。つらかったろうな」

「じいちゃん、お父さんの言ったこと、ほんとなの?」


 じいちゃんは少し困った。けっきょく、こう言ったけど。


「本当だ。残念だが」


 たけるが泣きそうな顔になる。


「やっぱり、本当なんだ」

「いとこの、あつしが、このあいだ死んだだろう? あれも、そのせいだ」

「お父さんも、死んじゃったもんね……」


「わしが若いころ、全国を旅して、なんとか呪いをとく方法がないか探した。だが、見つからなかった。おまえたちが大人になるまでには見つけたいもんだが……じいちゃんも、もう年だからなあ」

「じいちゃん……」


「たける。かおるを守ってやるんだぞ」

「うん」


「それとな。あんまり、じじいに心配させるでない。おまえたちに、もしものことがあったら、じいちゃんはどうしたらいい?」

「ごめん……」

「わかってるならいいんだ」


「ねえ、じいちゃん。おれ、強くなりたいよ。おれに剣道と柔道、教えて」


 じいちゃんは剣道と柔道の達人だ。


「弱音をはくなよ」

「うん!」

「さあ、もう遅い。早く寝なさい」

「おやすみ」


 そう言って、たけるが、こっちに歩いてくる。


 かおるは、あわてて階段をあがった。

 なんでか知らないが、なんとなく見つかっちゃいけない気がした。


(なんの話だったんだろ。にいちゃんが泣きそうなの、初めて見た)


 いや、初めてではない。一度だけ見た。お父さんとお母さんが死んだとき。

 かおるも泣いた。たけるも泣いた。

 それと同じくらい悲しいことが、兄にはあるんだろうか?


(のろいが、なんとかとか、聞こえたような? のろいって、なんだろ……)


 ふとんをかぶってると、たけるが帰ってきた。かおるが寝てると思ったのか、そのまま自分のふとんに入った。

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