8

 *


 翌日、お昼ごはんが終わってから、おさむくんのマンションに行った。おさむくんのマンションは学校のすぐ近くだ。


 おさむくんは熱もさがって、だいぶ元気になっていた。


「わあ、スイカだあ」

「じいちゃんのイナカの親せきが送ってくれたんだ」


 マンションだから、タネの飛ばしあいはできない。でも、おさむくんが元気で、ほっとした。


「よかった。心配したんだよ」

「うん……」

「すごく、こわかったから、それで病気になったのかなって」

「う、うん……」


 おさむくんは、あきらかに話すことをいやがってる。


「ほんとに女の子のオバケ、見たの?」


 おさむくんは答えない。

 すると、たけるが言った。


「かーくん。オバケなんて、いるわけないよ」


 とたんに、おさむくんはムキになる。


「いるよ! ほんまに見たんや」

「ふうん。そうなの?」と、たけるは、そっけない。


「学校の制服きた女の子。たたみに、たおれて、血も出とった」

「ほんとに?」

「ウソちゃうもん。それに……」


 おさむくんは、急に、だまりこむ。

 たけるは、やさしい口調になった。


「それに、どうしたの?」

「うん……」

「うたがってるわけじゃないよ。ちゃんと話してくれたら、信じる」


 たけるに言われて、おさむくんは話しだす。


「みんなが逃げたあと、男が来た。おれ、動けへんかったし、フスマのかげに入ったんや。そしたら、男がこっちに来て……」

「うん。それで?」


「あわてて、となりの部屋に移った。となりも部屋があった」

「ああ。フスマで、つながった和室だったね」


 おさむくんは、うなずく。


「それで、そこから庭に出たんや。えんの下におった。そしたら、男が女の子かかえて、庭に出てきたんや」


「庭に?」

「庭に井戸があって……」


 あ、あったなと、かおるは思いだす。


「それで……」

「それで?」

「女の子、すてたんや」


 たけるは考えこむ。


「どうするの? たけるにいちゃん」

「うん。おさむくん。それ、ほんとにオバケだと思ってる?」

「え? オバケやなかったら、なんなん?」

「女の子はともかく、男のほうは生きた人間なんじゃないかな」


 かおるは、おさむくんと顔を見あわせた。


「なんで?」と聞いてみる。

「おさむくんを助けに行くとき、ちょうど、あの家から人が出てくるとこだったんだ。オバケにしては、ちゃんと戸にカギかけてたよ」


 たしかに、いつもカギをあけてから入ってきてた。でも、かおるは納得がいかない。


「だけど、あのオバケが出たとき、ひとだまも出たよ」

「いつ?」

「にいちゃんといっしょに、ブッチをさがしに行ったとき」

「ああ。あれは夜だったから、かいちゅう電灯の光だよ」


 そう言われると、そんな気も……。


「だけど、はしらにキズがあった。ツメで、ひっかいたみたいなのが」


 たけるは、くすっと笑う。


「そりゃ、あるだろうな。ブッチはネコだから。ツメとぎするよ」

「えっ? ブッチ? じゃあ、ネズミのしがいは?」

「ブッチがつかまえて、食べたんだろ」

「ブッチはキャットフードしか食べないよ」


「ネコはネズミや小鳥をつかまえて食べるもんなんだよ。昔はネズミをとらせるために飼ってたんだから。ブッチは飼い猫にしては、たくましいやつなんだと思う」


 お刺身の切り身になる前を、初めて見たときのようなショックだ。


「おれたちが探しに行ったとき、ブッチ、庭に出てたし。たぶん、ゆか下にスキマがあるんだ。古い家だからさ。そこからネズミも入るんだろうな」


 あんなに、こわい思いしたのに、犯人はブッチ!


「そんなあ……」


「じゃあ、あの男の人は、だれ?」と、おさむくん。


「あの家のカギをもってる、だれかだよ。ボウシを深くかぶってたから、顔は見えなかった」


 かおるは、おどろいた。


「その人、ぼくも見た」

「いつ、どこで?」

「ええと、たしか……夜中にブッチをさがしに行ったとき。にいちゃんが来る前かな。路地のところで。あとは、よくおぼえてない。あっ、学校の帰りに、つけられたよ」


 たけるは真剣な顔で考える。


「やっぱり、それ、人間だよ。オバケなら、かーくんのあと、つけてこないだろ」

「そうかな。でも、それじゃ、おさむくんが見た女の子は?」

「それもオバケじゃないとしたら、本物ってことだ」

「本物?」

「うん。だから、本物の女の子」


 本物の女の子。

 だけど、女の子は死んでいた……。


「女の子、死んじゃったの?」

「おさむくんの見たのが、ほんとなら」


「な、なんで?」

「井戸にすてたっていうから、死体が見つかると、こまるってことさ。あのボウシの男に殺されたんじゃ……」

「ええっ……」


「今、ちょうど、行方不明の女の子、いたろ。ゆうかいされて、ニュースになってる」

「まさか、あの子?」

「いや、それは、わからないけど。もしかしたらってことだよ」

「ど、どうしよう……」

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