6



 わッと、とつぜん、たくやくんが大きな声をだす。


「な、なに?」

「そこに……なんか、おる」


「ええっ!」

「どこ?」


「なんかって、なんや?」

「なんかは、なんかや。ほら、そこ」


 柱のかげに、へんなケモノがうずくまってる。さすがはオバケ屋敷。オバケだけじゃなく、妖怪までいるのか?


 ——と思ったけど、よく見ると、それはネズミの死がいだ。


「ね……ネズミだよ」

「あ、ほんまや」

「わあ、おれ、ネズミ、初めて見た」


 近づいていって、おさむくんは悲鳴をあげた。


「ぎゃあ。かじられとる!」

「ええっ!」


 さっきから、かおるは、こればっかり。


「なんや? なにがネズミ、かじったんや?」

「オバケ……ちゃう?」

「オバケって、ネズミ食うんや!」

「ええっ!」

「かーくん。『ええっ!』は、もうええよ」

「ごめん」

「オバケ。ほんまにおるんや」


 クールな、そらくんが感心してる。


「だから言ったやろ! おんねんて」と、おさむくんは意気ようよう。


「でも、まだ本体、見てないよ」

「よし。部屋も一つずつ、あけてみるぞ」


 おさむくんは調子にのって、一人で、かけだす。勢いよく、ふすまをあけた。そのとたん、わっと声をあげて、おさむくんは尻もちをついた。


「……おさむくん? どうしたの?」


 声をかけると、おさむくんはフスマのすきまを指さす。ふりかえった顔が、ひじょうに、きんちょうしてる。


「やめてよ。じょうだん」


 おさむくんは首をふった。


「で……でた。女の子が……死んどる」


 言いだしたから、みんなは、こわばった。ひとかたまりになったまま、動けない。


 そのとき、あの音がした。げんかんのほうで。いつもの、ガチャガチャとカギをあける音。


 ひとだまのオバケが、また、やってきた!


 かおるはガマンならなくなって走りだした。もちろん、最初の和室のほうへ。


 みんなも口々に悲鳴をあげて、かおるのあとを追ってくる。

 バタバタ、にぎやかに和室に、とびこんだ。まどから逃げだし、板べいの穴から、路地へ。


 しばらくしてから、かおるは気づいた。


「あれ? おさむくんは?」


 みんなも、見まわして、おどろく。


「いいひん」

「まさか、オバケに、つかまったんやない?」


 たいへんなことになってしまった。

 友だちがオバケに食べられてしまう。あのネズミの死体みたいに、首が、かじられて……。


 かおるは泣きだした。もう、どうしていいか、わからない。

 すると、路地の入口に、たけるがあらわれた。


「にいちゃん!」

「こんなことだと思ったよ。ウソついてる顔してた」

「おさむくんが、オバケに食べられちゃうよ」

「何があったんだ? 話してごらん」


 たけるに抱きついて、すっかり、うちあけた。


「おさむくんだけ、まだ中なんだな。わかった。にいちゃんが行ってみる」

「にいちゃん……」


「おまえは、みんなと、そこの公園に行ってるんだ。こんなところでウロウロしてたら、近所の人に変に思われる」

「うん……」


 路地のおくへ歩いていく、たけるを見送る。かおるは言われたとおり、みんなと公園へ向かっていった。


 ちょっと歩いて、ふりかえる。

 路地から男の人が出てくるところだった。

 ドキンとした。あの男だ。ボウシを深くかぶった、マスクの……。


 やっぱり、あのオバケ屋敷の近所の人なんだろうか?

 それとも、いつも、かおるのあとをつけまわしてるのか?


 なんだか、とても、こわい。

 オバケと同じくらい、こわい。


(にいちゃん。だいじょうぶかな)


 めそめそしながら待つ。

 しばらくして、たけるが帰ってきた。ちゃんと、おさむくんといっしょだ。でも、おさむくんは病人じゃないかって思うくらい、青い顔をしてる。


「にいちゃん。おさむくん。だいじょうぶ?」

「おれは平気だよ。だけど、おさむくんは気分が悪そうだ。今日はもう、うちに帰ったほうがいいよ」

「うん……」


「にいちゃんは、おさむくんを送ってくから、おまえは先に帰ってろよ? みんなも帰るんだ」


 はーいと言って、みんなは帰っていった。


 かおるも一人、とぼとぼ帰った。

 ほんとは、おさむくんから、いろいろ聞きたかったんだけど。


 おさむくんが見た女の子の死体は、本物だったんだろうか?

 それとも、オバケ?

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