第11話 神殿

「ひとまずハンターギルドに行きましょ、リョージもドロップ品を換金したいでしょう?ステラとわたしもギルドに行くから」

「ギルドっていつまでやってるんだ?」

「買取窓口なら夜半過ぎ、新規登録なら日没までかしら」


 日没まで2時間ってところか。

 十分時間はありそうだな。


「なら、先に神殿に行ってドロップ品を奉納したい。俺の主目的はそっちだからな」

「未来の英雄様は勤勉ですなぁ!」

「茶化すなよ……」

「ふふっ、それじゃあ神殿に先に向かいましょう。わたし達も重い荷物や装備を置いてからでもギルドには間に合うし」

「それもそうね!」


 ということで、俺たちは神殿へ向かうことになった。


 西門から入った俺たちは、道なりに町の中心部へと歩を進める。

 その間に俺は、町の様子や歩いている人々に目を凝らす。


 馬車が時折通過することや、舗装されている道は石畳となっていること、道の両脇にはガスランプのような街灯が並んでいることから、文明レベルとしては産業革命前の中世後期といったところだろうか。

 町ゆく人々の姿を見れば、おそらく亜麻や綿のシャツや皮の外套を羽織った人たち。人種は様々、エルフやドワーフ、あれはハーフリング?定番の猫耳犬耳獣人から、何の獣人かぱっと見わからない人種とバラエティ豊かだ。


 うん、定番の異世界転移ってやつだな。


「ついたわよ!ここが町の中心にして、神殿よ!」

「ほ~……」


 俺たちの目の前には、町の中心であろう広場と、広場の中心にそびえる古代ギリシャ様式の白亜の神殿が聳え立っていた。

 神殿の隣には小さなアパートのような3階建ての建物があり、その周りでは多くの子供たちが遊んでいた。


「そこはわたし達の実家の孤児院よ」


 俺の隣に立ったステラがそう告げた。


「子供の数、多いでしょう?実際の孤児院の子供はそこにいる半分くらいなんだけどね。町の子供たちを親が仕事の間預かっていたりもするから」

「ステラとアンナの両親は――」

「わたしとアンナの両親は共にハンターだったわ。私たちをこの町の孤児院に預けて、ダンジョンから帰らなかった。よくある話よ」

「そうか……実は俺も、両親とは子供のころに死別してるんだ。よくある話、だな」

「そ、よくある話」


 何となくシンパシーを感じた俺たちは顔を見合わせて笑いあう。

 両親が死んでいるというのに不謹慎だろうか。でも、俺たちに両親がいないのは日常なのだ。


「わたし達は荷物を置いてからギルドに向かうから、リョージは先に神殿に行ってらっしゃい。用事が済んだらここで待ち合わせましょう」

「ああ、了解」


 神殿に立ち入ると外から見る厳つい造りに対して、思いのほか明るかった。内柱の所々に光る石が埋め込まれている。

 魔法の道具かなんかかな。


「ビギナ神殿へようこそ。初めていらっしゃった方ですか?」


 入口近くで立ちすくんでいた俺に、神官服の壮年の男性に声をかけられた。


「私はこの神殿の神官長、クライブと申します」

「初めまして神官長様、このような大きな神殿へ来たのは初めてで……狩神の祭壇ってありますか?」

「この神殿では各神の祭壇は存在しません。あまねくすべての神を祀っておりますので、中央の祭壇でお祈り頂ければ十分ですよ」

「そうなんですね。ありがとうございます」


 礼を言ってクライブさんと別れた俺は、中央の祭壇の傍らに立つ。

 とりあえずダブっているドロップアイテムをひとつづつ奉納するか。

 インベントリからスライムの核・ウサギの毛皮と肉、前足とスキルスクロールを取り出す。

 スキルスクロールを取り出したところで、周りの人たちがギョッとするのがわかった。

 その瞬間、危機察知が発動していくつかの敵意がこちらに向くのを感じた。


 スキルスクロールを奉納する気か……もったいない……あれだけで金貨10枚はくだらないぞ……と囁き声が聞こえる。


 敵意の一つが、俺のすぐそばまでやってきた。


「何か用か?」


 俺は奉納品から目を離さず、近寄ってきた気配に声をかける。


「あ、い、いや、それはスキルスクロールだよな。それ奉納しちまうのか?」

「俺が何を奉納しようが、俺の勝手だろう。神に奉納する品にケチをつけるのはやめてもらおうか。神罰が下るかもしれないぞ」

「ぐっ……」


 言外に盗みを働こうとしても無駄だと匂わせる。

 神の実在がはっきりしている世界で、神罰という言葉はてきめんに効果があるらしい。視線は感じるが、敵意はほぼ消えていた。


「さて、奉納の作法って特に教えてもらってなかったな。……適当でいいか」


 俺は二礼二拍をして祈る。


「狩猟神アル様、どうぞ今日の奉納品をお納めください。ナムナム」

「あはははははは!なにそれ!変な動きと呪文!」


 聞き覚えのある声に顔を上げたが姿は見えない。


「初日でいきなりスキルスクロールを奉納されるとは予想外だったよ!リョージだっけ、いい名前だね!」

「おう、アル久しぶり!」

「お昼前に別れたばかりだよ?」

「ぶっちゃけ俺もこんなに早く会話できるとは思わなかったわ」

「スキルスクロールってある意味マナの塊みたいなものだからね。ボクの力も予想以上に貯まってこうして短い間だけど会話ができるようになったよ。ありがとね!」

「いいってことよ!まぁしばらくは新しい奉納品もないかもしれないからな、初回限定サービスってことにしておいてくれ。なんせこの町の周りにはウサギとスライムくらいしかいない」

「ちょっと足を延ばせばいろんな生き物がいるよ!奉納品、楽しみにしてるね!そろそろ時間みたい。慌ただしくなっちゃったけど、奉納を続けてくれればまたこうやってお話できるから、その時を楽しみにしているよ。あ、それとウサギのドロップコンプリート報酬があるから、じっくり考えて選んでね!じゃ、また!!」


 そういって一方的に電話が切れるように、アルとのつながりが切れたのがわかった。

 気づくと二礼二拍をした格好のまま立ち続けていることに気づいた。

 アルとの会話は、脳内とか精神世界とかでの会話だったのかもしれない。

 祭壇の上の奉納品はきれいになくなっていた。

 最後に祭壇に向かって一礼をして踵を返すと、クライブさんのドアップが目に飛び込んできた。


「うわっ!!びっくりした!」


 なんなのこの世界!!今日一日で3回目だぞ!異世界ぐるみで俺にドッキリしかけてるの!?


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