第12話 ハンターズギルド

「脅かしてしまったようで失礼いたしました。失礼を重ねて申し訳ありませんが、今、神託をお受けになられていらっしゃいませんでしたか?」

「神との会話の事であれば、その通りです」

「なるほど……よろしければ、この後お時間をいただいてお話をお聞きしたいのですがご都合はいかがでしょうか」

「実はこれからギルドに行って登録とドロップ品を売却しなければならないのです。そのあと、宿を取らなければなりませんし……」


 文無しなので一刻も早く現金収入が欲しいのだ。


「そうなると夜半を過ぎてしまうことになりそうなので、明日以降であれば助かるのですが」

「では、本日は隣の孤児院でご宿泊いただくのはどうでしょうか?」


 クライブ神官が神殿に滞在するよう提案してくれた。


「ギルドは幸い神殿のちかくにございますし、宿をとる手間もございません。それに何やらステラとアンナがお世話になったそうですし」

「ステラとアンナをご存じなんですか?」

「二人はここの孤児院出身ですからね、私の娘のようなものですよ」

「なるほど。世話になったのはこちらのほうですが、お言葉に甘えさせていただこうと思います」

「それはよかった!二人は神殿のすぐ外であなたをお待ちしています。お気をつけていってらっしゃい」

「ありがとうございます。いってきます」


 クライブ神官の提案は渡りに船だったな。

 ともあれ、まずはギルドにって現金をゲットしなければ。


「あ、リョージ!遅いわよ!」

「こら、アンナ」


 神殿から出ると、ブンブンとてを振り上げているアンナと裾を引いてたしなめるステラの姿が目に入った。

 ステラの僧服は見た感じそのままのような気がするが、アンナは軽装を解いて肩にズタ袋を提げていた。


「すまん二人とも、待たせたみたいだな」

「新規登録の窓口が閉まっちゃうわよ、急いでいきましょう」


 アンナはそう言うとダッシュで大通りを駆け出した。

 俺とステラはその姿に顔を見合わせ、二人で並んでアンナの後を追いかけた。


 大通りを進んで二ブロックほど進んだあたりで、一ブロックの半分ほどを占める巨大な建物が目に入った。建物の入り口ではアンナが手を振っている。


「ここがギルドか……神殿ほどじゃないにしろでかい建物だな」

「ギルドの中には、事務局だけじゃなくて解体場や酒場、売店などハンターに必要なものがすべて集約して入っていますからね。市場が丸ごと建物の中にある様なものです」

「はー、なるほどなぁ」


 ステラとアンナの先導でギルドの中へ入ると、確かにそこは市場を建物の中に突っ込んだような造りをしていた。元の世界で観光した屋内市場にそっくりだった。


「ひとまず新規登録しちゃいましょ!リョージはこの町のギルドカードを持っていないでしょう?」

「ギルドに登録しておくと、何か特典ってあるのか?」

「ギルドカードは身分証代わりになりますし、町に入る際の税金がかかりません。ハンターギルドにドロップ品を売却すれば、その人にかかる税金のもろもろが売却金額から天引きになりますから」

「貢献度が高ければ、他にも色々サービスを受けられるようになるわよ」


 窓口に着いた俺たちを待っていたのは、ケバケバしいお化粧に胸元が開いた制服を着たセクシーな受付嬢だった。


「ハァイ!アンナにステラ、こっちの窓口に来るのは珍しいけど、そちらのイケメンさんはどなた?紹介してよ」

「ベス久しぶりー!この三枚目は、今日ビギナに来た旅人さんで、リョージって言うんだ。よろしくしてやってちょうだい」


 ベスと呼ばれた受付嬢は、胡乱げなタレ目をこちらに向け、厚ぼったい唇を開く。


「ビギナハンターズギルドへようこそ、新人さん。文字の読み書きはできる?」

「あ~多分無理だ」


 街中で目に入った看板や、この場にある張り紙を見る限り、何が書いてあるのかさっぱり理解できなかった。

 拠点を決めたら読み書きの練習を始めよう。


「代読代筆なら、銅貨5枚でやってあげるわよ」

「奉納点で大陸共通語のアビリティ取ればいいじゃない」


 ベスからの提案を、横からアンナが遮った。


「ああ~んもぅっ、お小遣い稼ぎの邪魔しないでぇ!」

「受付嬢ならそれなりに給料もらってんでしょ、セコイことしてんじゃないわよ」


 ベスとアンナはぎゃいぎゃいと受付で言い争いを始める。


「奉納点?」

「神殿でドロップ品を奉納すると、一定の奉納点がもらえるのでステータスからアビリティを選択できるはずですが……ご存じなかったですか?」

「あ~、いや、うっかりしてた。今まで使う機会も無かったしな」


 ステータス画面を脳裏に思い浮かべると、奉納点の項目が増えていた。

 あと、野ウサギのドロップ品コンプリートボーナスを選択してくださいシステムメッセージが出ていたが、とりあえず後回しにしてアビリティの項目を見てみよう。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る