第10話 リョージ、町へ入る

「狩猟神って珍しい神を信仰してるのねぇ」


 狩猟神に仕えていると聞いて幾分か警戒を解いたアンナは剣を納めた。


「そんなに珍しいことか?狩人ならみんな信仰しているんじゃないのか?」

「リョージの出身はどこか知らないけど、普通は大地神か戦神を信仰するわね。狩猟神ってほら、実績開放するの大変でしょう?」

「戦神ならモンスターを狩ればすぐに実績開放されますし、大地神は大地の実りすべてを司るので動物もその範囲に入りますしね。それよりも、先にお水をお渡ししましょう」


 ステラは背負っていた背嚢から木製のマグを取り出し、俺に手渡した。


「【あまねく豊穣をもたらす大地の神よ、敬虔なる信徒に恵みの礎をお与えください・ヒールウォーター】」


 ステラが祈りを捧げると、俺が手にしたマグになみなみと水が溢れ出した。


「大地神お墨付きの【癒しの水】よ。生命力と精神力をゆっくり回復する効果もあるわ」

「へー、そうなのか。んじゃ遠慮なく……うめぇ!!」


 冷たすぎず、温くもない、適度な温度の水が、渇いたのどを滑り落ちる。

 細胞の隅々まで水がしみこんでいくようだ。


「一息ついたところで、わたし達もそろそろ帰りましょうか。リョージさんもご一緒にいかがですか?」

「そりゃ助かる」

「ステラが言うなら仕方ないわね。ほら、さっさと行くわよリョージ」


 あ、ウサギの前足そのまま持っていきやがった。

 まぁ、値段交渉前に水を飲んだのはこっちだし、まぁいいか。


 道すがら俺たちは自己紹介と、これから向かう町「ビギナ」について聞いているとあっという間に石壁に据えられた門の前にたどり着いた。

 門の前には列が並んでおり、少しずつ前に進んでいる。こりゃあと1時間くらいは町の中に入れそうにない。

 時間的には午後3時くらいか?太陽がやや西に傾いている。


 ステラとアンナは共にビギナの神殿付きの孤児院出身で、二人とも17歳、15歳からハンターとして活動しており、収入の一部を孤児院へ納めているらしい。


「リョージはどこ出身なの?」

「俺は、名もない小さな東の村出身でな、狩猟神の英雄を目指している」


 そういうと二人ともぽかーんと口を開けていた。


「英雄を目指すって大きく出たわね……」

「アンナ、失礼よ。でも、狩猟神の英雄って未だ誰もいないそうですが……条件も不明らしいですし」

「条件なら分かってる。狩猟神本人?神?から聞いたからな」

「じゃあなに!リョージは狩猟神の神託をうけたの!?すごいわね!!」

「似たようなもんだ」

「そうなると狩猟神の加護もかなり高位のものを持っていらっしゃるのかしら」


 二人の反応を見ると、狩猟神の使徒とか加護のレベルが10あることなんかも伏せておいたほうがいいのかもしれないな……。


「そろそろわたしたちの番でしょうか」


 ステラの言葉に目を上げると、列も大分前に進んでいた。

 いよいよ異世界最初の町だ。楽しみだな。


「この町の住人でないのなら、通貨町税は半銀貨一枚か大銅貨5枚、銅貨50枚のいずれかだ。それとこの水晶玉に手を当ててもらう」


 町に入るのに金取るのかよ……。

 俺は門を守る衛兵を前にいささかげんなりした表情を浮かべた。

 とりあえず水晶に手を当てると、水晶玉は透明なままだった。


「犯罪歴は無いようだな。では町税を払ってもらおう」

「それなんだけど、現物でもいいか?」

「ドロップ品の買取はここでは行なっていない。門の外にいる商人と交渉でもして金を作るんだな」

「まじかー、それって買いたたかれそうだなぁ~」

「すまんな、こっちもこれが仕事なんだ」

「そいつの税金はわたしが払うわ」


 アンナはそう言うと、懐の財布から半分になっている銀貨を取り出した。

 あれが半銀貨か。


「おい、いいのか?」

「前足のお釣りよ。全然釣り合わないけどね」

「お前、いい女だな」

「知ってる!」


 ステラと衛兵は俺たちのやり取りを苦笑いして見ていた。


「税は確かに受け取った。それではようこそビギナの町へ、歓迎するぞ」


 衛兵の言葉に背を押され、俺はビギナの町へ一歩を踏み出す。

 俺の眼前には、日干しレンガと石造りの街並みが広がっていた。

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