第9話 現地住民との初邂逅

 スキルスクロールを開いて収納スキルを習得した俺は、街道に沿って歩き始めた。

 眼前には牧歌的な風景が広がっている。

 時折見かけるスライムや野ウサギを弾丸一発で仕留めながら歩いていると、丘を越えた向こうに石壁に囲まれた街の姿が見えた。


「この辺で休憩するかな」


 丘のてっぺんに腰を下ろし、アルから渡された図鑑を開いてみと、スライムのページが更新され、野ウサギのページが追加されていた。


 スライムのドロップ品は、3種類。「スライムの粘液」「スライムの核」「スキルスクロール【収納】」そのうち、スライムの粘液に✔がついていた。

 どうやらアルに捧げたものには✔が付くようになっているようだ。

 こういうわかりやすい実績は大好きだ。Devastation worldでもすべての実績を開放するのが楽しかったしな。旅をしながらページを増やして、実績を開放していこう。

 野ウサギのドロップ品は4種類あった。「野ウサギの毛皮」「野ウサギの肉」「野ウサギの前足」「スキルスクロール【危機察知】」だ。

 運よくスキルスクロール【危機察知】が2本手に入ったので1本を使用した。

 危機察知は意識することで、敵意のある存在が近くにあるかどうかがわかるスキルのようだ。

 今のところ、この近くに敵意を感じる存在はいないらしい。

 ステータスを見ると、レベルが4まで上がっていた。

 生命力が100から133へ、精神力が172に上昇している。

 あと、職業が狩人ハンターに変更されていた。

 名前はまだない。早く決めなきゃ。


「それにしても、ちょっと喉が渇いたな……」


 手元にあるのは、銃と図鑑それにスライムと野ウサギのドロップ品がそれなりだ。渇いたのどを潤せるアイテムは手元にない。

 あと2時間もあれば町に着くから、それまで我慢すればいいけど。


「あの~……こんなところでどうなさったんですか?」


 突然後ろから声をかけられ、肩が跳ねる。

 アルの時もこんなのばっかりだった気がする。


「ちょっと休憩してたんです。旅の途中だったのですが、水を切らしてしまって」


 そういいながらゆっくりと立ち上がって振り返ると、そこには二人の少女が立っていた。

 俺に声をかけた少女はゆったりとした白い僧服に身を包み、木製の長杖を胸元に抱えていた。ベールからは長い金髪の一部が零れ落ち、ハシバミ色の瞳が俺を覗き込んでいる。

 そのやや後ろでは、軽装に片手剣を腰に刷いたダークブラウンの髪をポニーテールに結わえた少女がこちらを警戒するように睨んでいた。

 剣士と僧侶の二人パーティーなのかな?


「それは難儀でしたね。よろしければ、お水をお分けしましょうか?」

「それは助かります。俺には手持ちの路銀が無くて、できればドロップ品と交換してほしいのですが、いかほどでしょうか?」

「そんな、悪いですよ!」

「くれるって言うんだから貰っておきなさいよ!対価なく施しをしないのはハンターの常識でしょ!」

「そちらの方の言う通りです。とは言っても相場がわからないので、こちらでお渡しできるのはこれだけですが」


 そう言って俺は、スライムの粘液・核とウサギの毛皮・肉・前足を取り出す。

 スキルスクロール【危機察知】についてはアルに奉納する予定だし、超激レア品の価値についても不明なので、出さないでおこう。


「お兄さん、収納持ちだったんですね!すごいです!」

「ウサギの前足があるじゃない!これにしましょうよ!」


 収納スキルに感心する僧侶少女を尻目に、剣士少女が急接近してきた。


「これって価値があるんですか?」

「ウサギの前足は魔道具に加工すると、幸運を上げるアクセサリになるんですよ。幸運が上がれば、レアドロップが少し落ちやすくなったり、クリティカルヒット率も多少上がるみたいですし」


 クリティカルヒット……ヘルプに尋ねると、攻撃が弱点に命中した場合の攻撃を言うらしい。弱点看破が無ければ意識して命中させることは難しいらしい。

 インベントリには、あと三本ウサギの前足が残っている。


「へー、そうなんですか。それじゃ、お二人分ってことでお二つどうぞ」


 そういって俺はウサギの前足を二本、少女たちの手に乗せる。

 二人ともウサギの前足を手に、固まってしまった。


「アンタ、この価値を理解してないの?」

「これってそんな高いものなんですか?」

「これ一本で銀貨五十枚よ! 半年近くは何もしないで暮らせるわよ!アクセサリーにすれば金貨一枚!一年は生活できる金額になるのよ!」


 一か月の生活費が銀貨十枚、銀貨百枚で金貨一枚ってところか。

 ヘルプで検索すると概ねその通りのようだ。銀貨百枚から百十枚(時々によってレートが若干変化する)で金貨1枚、ちなみに銀貨一枚で銅貨ぴったり百枚になるようだ。


「ウサギの前足ならあと三本もってますから、遠慮しないでどうぞ。こちらは助けてもらう立場ですし」

「レアアイテム5個って、アンタどれだけウサギを狩ったのよ……」

「ほんの10匹程度ですけど……」

「すごい幸運値ですね……」

「幸運値ってステータスには表示されないんだけど」

「アンタ……何者?ステータスに隠蔽項目マスクデータがあるってのは常識でしょうが」


 そういって距離を取った剣士少女は腰の片手剣を抜いて切っ先を俺に向けた。


「アンナ落ち着いて。このお兄さんから敵意は感じないし、神聖な気配を感じるから、きっとどこかの神様の敬虔な信徒さんよ」

「もしかしたら盗賊神の信徒かもしれないじゃない!ステラも距離をとりなさい!」

「こんなお間抜けな盗賊さんはいないよ~、ごめんねお兄さん」


 お間抜け……


「わたしは、大地神デーメに仕える神官見習のステラ、こっちは剣士のアンナ。お兄さんの名前は?」

「俺は……狩猟神アルに仕える――」


 やっべ、名前考えるの忘れてた……。

 狩人……猟師……りょーし……リョージ



「狩人のリョージ、リョージだ!」


「よろしくね、リョージ!」

「よろしくしてあげるわ、リョージ。アンナよ」


 俺はこれからリョージを名乗ることにした。

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