第10話

「ノワール、時間だ…準備は?」

バイクのグリップを強く握り、息を整える。

俺達は最初の標的を捕らえるための準備を整えた。

そして、今、標的を誘き出すための作戦を実行する。

「出来てるよ…だが、本当に大丈夫なんだろうな。」

「保証はできん、結局はお前の腕次第だ。いいか、お前はそこから街を何周か走り、私達が準備した目的地まで奴を連れてくる。それがお前の役目だ。ノーネームは先に目的地で待機をしているからな。」

「わかった。」

俺はマスクを取るとジョウから受け取った薬を飲み込む。

これを飲めば集中力が上がるらしい。

まぁ、ただの気休めだと思うが。

心臓からバクバクと鼓動を感じる

「大丈夫だ、トレーニングはした。やれることはやったんだ。後は……事故らないように走るだけだ。俺ならできる…俺ならできる。」

俺はそう自分に言い聞かせる。

少しだが手の震えが治り、俺は覚悟を決めた。

「それじゃ、始めるぞ。凛、起動しろ。」

アクセルを全開にし、バイクを唸らせると街へと向かってバイクを走らせた。


数日前…。


「それで頼まれていたものは出来たが…始めるのか?」

「ああ、待っていても始まらない。ならばこちらから行動するのみだ。俺の考えをお前らに説明する。各自、何かあれば質問してくれ。」

俺は考えていた作戦を二人に説明する。

めちゃくちゃな作戦だったが二人は異論はないようだ。

「確かにそれならスピードスターが出てくると思うが…お前はそれが出来るのか?あのスーツならそれだけの速さに耐えられると思うが…一回でも事故を起こしたら…即死だぞ。」

「そのためにもう一つのものを作らせただろう?あれをやって慣れるしかない。」

「はぁ…そうだな。……着いてきてくれ。」

ジョウに案内してもらった部屋の真ん中にはゲームセンターなどに置いてあるレースゲームの筐体が置かれている。

「取り敢えず、やって見たほうが早いか。夏樹、バイクに跨れ。」

言われた通りにバイクに跨ると色々なコードが繋がれているヘルメットを渡され、頭にはめる。

するとすぐに目の前には都市の道路が表示された。

「そのバイクは頼まれていたものと同じものだ。試しに走ってみるか?」

「ああ、頼む。」

画面には数字が現れ、カウントダウンが始まる。

どこぞのレースゲームみたいな感覚か。

そして、カウントダウンがゼロになった瞬間、俺はバイクのアクセルを全開にする。

その瞬間、突然目の前に路上に止められた車が現れ、ぶつかってしまった。

それと同時に衝撃がバイクから伝わり、俺はバイクから転がり落ちる。

「あっ…1秒も持たなかったか…。」

考えていたよりもこれは…正直、手の内ようがないかもしれない。

「今のが…?」

「ああ、奴の世界だ。奴はそのスピードで街を駆け回っている。つまり、私達とは見えている世界が違うんだよ。」

これはどうするべきか…。

ある程度のことは考えていたがこうなると他に手を考えるべきなのかもしれない。

「あの…私もやらせてもらっても?」

「なんだ、興味が湧いたのか?」

「少しだけですが。」

名無しはそう言うとすぐにバイクに跨り、頭に着けていたマスクの上の部分にコードを繋いでいた。

あのマスクはあんなことも出来るのか…。

名無しは乗り心地を確かめると俺たちの方を向いた。

「それで…どうすれば始まるのですか?」

「エンジンをかけたらすぐにカウントダウンが始まる。後は…障害物を避けて進むだけだ。」

頭にコードをつけた変態のような格好をした名無しが俺には少しおかしく見えてきた。

そんなことを考えながら画面を見ているとゲームが始まった。

名無しは何も言わずに姿勢を屈めるとどことなくそれらしさが出てくる。

カウントダウンが始まり、ゼロになった途端、アクセルを全開にし、街を駆けていく。

「凄いな…。」

そしてその調子で障害物を物ともせずにフルスロットルで道路を走って行く。

だが、突然前から現れたトラックに衝突すると画面には大きな文字でゲームオーバーと文字が現れた。

「ふぅ…これは意外と難しいですね。私では無理そうです。」

「いや、こいつよりはセンスを感じたが…いっそのこと役割を交代したらどうだ?」

「いえ、残念ですが、私はやめとくことにします。それに…彼にとってこれから戦うにはいいトレーニングだと思いますしね。」

大きな溜息を吐くと俺は名無しと入れ替わり、またバイクに跨り、ヘルメットを装着する。

俺達はあれから話し合い最初の標的を決めた。

それは俺のことを襲ったと思われるスピードスターだ。

ストーンを狙うよりは彼から狙ったほうが良いとのことが決まり、こうして作戦の為にトレーニングをしているのだ。

作戦の内容は俺が決めた。

まず、奴を誘き出す為に街中をバイクで走る。

ただ、走っただけでは奴は現れないだろう。

だから、ジョウに情報を操作してもらい、俺が犯罪を起こしたとヒーローへ伝える。

そしてもう一つ大事なのはスピードスターを追引き出すことだ。

その為に俺はジョウにバイクを作らせた。

俺はスピードスターに捕まらない速さを出せるバイクをジョウに作らせたのだが、奴のスピードに合わせるとなると大体、マッハ3程の速さで街を走らなければならないらしい。

だが、そんなスピードを出しながら街を走れるわけがない。

あいつらみたいな超人ならまだしも、俺はただの人間だ。

例え、目が慣れたとしても体がいうことを聞かないだろう。

ある程度の車はハッキングしてどうにかしてくれるらしいが…それでも正直、不安だ。

だから、こうしてトレーニング用の機械を作ってもらったんだが、所詮はゲームだ。

本番とは違う。

まぁ、それでもやらなければいけないのだが。

それからと言うもの、俺は殆どの時間、このゲームをやっていた。

そして少しずつだが、距離は伸び、今では名無しの記録を軽く更新するほどには上達してきた。

だが、こうして記録を塗り替える度に次の日にはまた名無しの記録が俺の記録を超えている。

ジョウから聞いた話だが、俺に記録を更新された日には名無しは隠れてこのゲームをしているとのことだ。

案外、こいつは負けず嫌いなのかもしれない。

そしてもう一つ、俺達は決めたことがある。

それは俺達のコードネームのことだ。

これから先、本名で呼び合うのはまずいと言うことで、俺達はコードネームをそれぞれにつけた。

名無しのコードネームはノーネーム。

安直だが、まぁ本人は気に入っているらしい。

ジョウはめんどくさいからジョウのまま。

そして俺のコードネームはノワールになった。

これも安直だが、コスチュームが黒いから…とジョウは言っていた。

名無しと同じで俺もこの名を気に入っている。

変に長くなく、覚えやすい名だ。

準備は整ってきている。

後は俺があのバイクを操縦するだけだ。


そして、日は進み、作戦当日に。


「夏樹、お前のために素晴らしいパートナーをもう一人つけておいた。彼女を呼び出すときは「名前を呼んで起動と言う…簡単だろう。

「何の役にたつのかわからんが使わせてもらおう。」

俺はジョウの作ってくれた兵器を腰にぶら下げるとバイクに跨り、深呼吸をした。

「いいか…絶対にちゃんと起動させろよ。彼女は頼れる味方だからな。…頑張れよ。」

「ああ、やれることはやるさ。それじゃ…行ってくる。」

エンジンをかけ、バイクを走らせ、配置へとつく。

出来れば、一般人は巻き込みたくはなかったが。

やるしかない。

なんていったて奴らはヒーローなのだから、悪さをすれば必ず奴らは俺の元へと飛んでくるだろう。

しかも、その相手が暴走車両となれば、それを止める為にスピードスターが送り込まれてくるはずだ。

そうなれば、後は奴の注意を引きつけ、目的地へと連れて行くだけだ。

俺のやることはスピードスターを連れて行くだけ。

簡単だがそれは思うようにことが進めばの話。

もし、違うヒーロが来たら…そのときはその時に考えよう。

「ノワール、時間だ…準備は?」

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